『とっておき インド花綴り』(西岡直樹、木犀社) その5
クズイモは、不可思議な植物だ。この本では、お供え物の果物のなかに、このクズイモがあったという話を書いている。クズイモを初めて見たのはタイの市場だが、もちろんそのときはこの植物の名も正体も知らない。植物学者吉田よし子さんの本のどれかで、マメ科のこの植物は生で食べるということを知った。
初めは土色のカブのように見えた。近づくと、イモだとわかった。生で食べると知って、市場で1個だけ買い、皮をむいて食べてみた。食感も味も、あまり甘くないナシだ。この本で、ワインレッドの花を咲かせると知った。
ウィキペディアで「ヒカマ」という和名があることを初めて知った。
この本には、私があまり好きではない果物がふたつ紹介されている。ひとつは、ゴレンシ(カタバミ科)である。英語名はスター・フルーツ。インドでは砂糖漬けにするようだが、「ゴレンシはそのままでも食べられる。汁気があって、さくさくして少し酸っぱく、ほのかに甘い。香水のようなよい香りがする」と書く。私があまり好きではない理由はそこに書いてあるように、甘味も香りも微弱で、唯一の長所は、輪切りにすると星形になるという形にある。タイではマファンと呼び、果物の盛り合わせに入っているが、それはやはり星形という形を利用した「飾り」としての役割だろう。
このゴレンシで、銅や真鍮を磨くとピカピカになると、この本にある。
もうひとつの果物は、レンブ(フトモモ科)だ。西岡さんが初めてこの果物を食べた時の感想は、これだ。
「(食べてみようかなという)期待を裏切るような、すかすかしたなんとも食べ応えのない感じは、今も頭に残っている。甘くもないし、酸っぱくもない」
私の感想も同じで、だから二度と食べていないのだが、西岡さんは「なにかさっぱりした物を食べたいと思うときに」食べるようになったそうだが、インドの子供たちは、この果実を好んで食べるわけではないと書いている。
そもそも、レンブという名は、なんだ? 漢字では「蓮霧」で、これが中国語なのだが、これで「レンブ」とは読まない。調べてみると、元はマレー語のjambuが台湾に渡り、漢字では「蓮霧」だが、台湾語の発音が「lian bu」に変わり、日本でレンブとなったようだ。
タイ語ではチョンプーという。シー・チョンプー、つまりチョンプー色とはピンクのことだ。実際のチョンプーは、白や薄緑もあるが、圧倒的に赤が多く、私の推測だが、マファン(ゴレンシ)と同じように、風味よりもあでやかな容姿が生存理由だろうと思う。
ザクロの種は香辛料になるとか、皮や樹皮は染料や薬用に利用されるといった雑学も得た。この本ではザクロはザクロ科としているが、ウィキペディアではミソハギ科に分類している。さらに調べると、ザクロ科としている資料も多くあり、エングラー分類体系とかAPG分類体系といった私がまったく知らない植物分類の問題ということらしく、こうなると素人には手に負えない。