2007-01-01から1年間の記事一覧

209話 池澤夏樹の「世界」は、こんなもの

河出書房新社が今度出す「世界文学全集 全24巻」は池澤夏樹の個人編集を謳っている。何人かの編集委員が収載作品を選ぶのではなく、池澤夏樹たったひとりに作品選定を任せましたという「世界文学全集」だ。 書店で、この文学全集のチラシを手に入れた。も…

208話 1970年代のミニコミと建築家

1970年代はミニコミの時代だったような気がする。60年代まではガリ版印刷が中心 だっただろうが、70年代に入ると、活版印刷や表紙にカラー写真を使ったものまで登場するようになった。こうなると、ミニコミとは言い難く、しかしマスコ ミと呼べるほど…

207話 1958年、東京の外国料理店(2)

日本最古のタイ料理店 1958年に出た『この国あの国 ―― 肴になる話』(向井啓雄、春陽堂出版)を読むと、東京にはじつに多くの外国料理店があるらしいとわかる。そこで、1958年の東京の外国料理店事情を調べ てみようとしたのが前回で、「タイ国料理」の店だ…

206話 1958年、東京の外国料理店(1)

イタリア料理店やドイツ料理店など 向井啓雄が書いた『この国あの国 ―― 肴になる話』(春陽堂書店、1958年)を古本屋で手に入れた。向井の本は、インターネット古書店の目録で、『とつくにびと ―― 風變りな旅行者』(文藝春秋新社、1956年)で初めて知った。…

205話 ある読者が、じつは訳者で、名訳を・・・

アジア文庫のこのページや、小冊子「季刊 アジア文庫から」で「活字中毒患者のアジア旅行」というエッセイを連載しているが、読者のことはまるでわからない。読者はそれほど多くないことはわかるが、どういう人たちが読んでいるのか、もちろんわからない。 …

204話 ビルマ小説『漁師』

さて、ビルマの小説『漁師』(チェニイ、河東田静雄訳、財団法人大同生命国際文化基金、 2007、非売品)だ。この財団が出している「アジアの現在文芸」シリーズは、市販はされていないが、大きな図書館などにあるので、借りて読むことは出来 る。日本語…

203話 雑語林の誕生

この欄のエッセイが200回を越えているので、記念というわけでもないが、私の考え方を書いておこうと思う。 この連載が始まったきっかけは、アジア文庫がホームページを作り、そのちょっとあとに私がパソコンを買ったからで、まあ、パソコンで文章を書く練…

202話 石森章太郎の海外旅行 その3

3カ月の海外旅行を終えて2年後、石森は旅行記を出版した。『世界まんがる記』(三一書房、1963年4月)は、のちに同じ書名のまま中公文庫に入った(1984年)。今回はこの旅行記をネタに話を進める。 1960年代初めの若者が、外国旅行をどう考え…

201話 石森章太郎の海外旅行 その2

石森の海外旅行話を読んでいて、「旅費の不足分が200万円というのは、いくらなんでも費用のかけすぎではないか」という疑問から、今回の文章を書いてみようと思ったのである。 日ごろ、貧乏旅行の本ばかり読んでいて、「どうすれば安く旅行できるか」とい…

200話 石森章太郎の海外旅行 その1

「快傑ハリマオ」の連載を終えた石森章太郎(のちの石ノ森章太郎)は、マンガ家生活6年目にして、「マンガ家はもういいや」という気分になっていた。1961年、石森23歳のときだ。 石森は、マンガ家になりたくてマンガを描いていたわけではない。大学に…

199話 堂々の勝利宣言 へなちょこライターが勝ったぞ!!

このアジア雑語林の第103号「間違いやすい『日米会話手帖』」(2005年4月)に、最大のベストセラーの地位を長らく保った『日米会話手帳』のことを書いた。まずは訂正から先にやっておくと、その本の名を『日米会話手帖』と表記したが、『日米会話手…

198話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その6

■1965年2月号、第35集 この号は人物ではなく、記事を紹介しよう。というのは、「創刊3周年記念企画」として、2コースの海外旅行を紹介しているからだ。「海外秘境の旅への誘い 主催:世界の秘境シリーズ 後援:日本交通公社」である。以下の地名は、…

197話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その5

■1964年2月特大号、第23集。 「わが青春放浪記」は徳川夢声だが、秘境らしい内容ではない。戦時中の外地の話題はまったくない。 「アマゾニアの毒蛇」の筆者は、いまもしばしばテレビに出演している動物作家実吉達郎(さねよし・たつお)。55年から…

196話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その4

■1963年5月号、第14集。 連載エッセイ「わが青春放浪記」は、アイ・ジョージ。父親はドイツの石油会社に勤める日本人。母親はスペイン系フィリピン人。父親の赴任先サンフランシスコで生まれて、マニラ育ち。マニラで母親が病死し、父と上海、香港、大…

195話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その3

■1962年11月号、第8集。 ここにもアフリカの旅行記が載っている。「未知の国ソマリア沙漠縦断記」を書いているのは、かの西江雅之。筆者紹介には、こうある。 筆者は昨年七月から今年の一月までアジア・アフリカの言語研究のためタンガニーカ、ケニア…

194話 「世界の秘境シリーズ」人物中心読み飛ばし その2

古本屋で手に入れた「世界の秘境シリーズ」の13冊を、執筆者を中心に読み飛ばしてみよ う。記事の内容をいちいち紹介すると、あまりに長くなってしまうから執筆者の話だけ書くことにする。署名のない原稿はでっちあげのきわどい原稿で、「未踏 の喰人地帯…

193話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その1

近所の古本屋に寄ったら、店頭に古雑誌が山と積んであった。ほこりまみれの古雑誌を点検 していたら、「世界の秘境シリーズ」(双葉社)があった。全部で13冊、1冊100円だ。保存程度がよければ、1000円から1500円くらいが相場らし いが、この…

192話 韓国語・朝鮮語など その2

韓国語・朝鮮語のことを調べていて見つけた、TJF(国際文化フォーラム)の不思議な資 料の話の続きだ。「四年制大学の開設状況」というタイトルで、全国の大学での朝鮮語教育事情のリストがついているこの資料の出ところを、探らなくてはいけ ない。TJ…

191話 韓国語・朝鮮語など その1

前回の復習になるが、東京外国語大学の前身である東京外国語学校が設立されたのは1873年で、そこに「朝鮮語学科」が加わるのは1880年のことだ。単なる想像でいうが、これが日本最初の朝鮮語教育所だった可能性は高いと思う。 戦後だと、たしか天理大…

190話 外国語の教育史

以前、外国語学習の日本史を知りたくて、ちょっと調べたことがある。幕末に蘭語から英語に変わっていく事情は多少知っていたが、明治に入ってからが茫洋と していてよくわからない。そこで、東京外国語大学の資料を読んでみたのだが、『広辞苑』のように厚い…

189話 『地球の歩き方』とアーサー・フロマー その2

アーサー・フロマー(Arthur Frommer)は1931年、ニューヨーク生まれ。ニューヨーク大学でジャーナリズムを学んだあと、エール法科大学院に進み、「エール法律ジャーナル」の編集者となる。 朝鮮戦争で徴兵されるものの、任地は朝鮮ではなく、ヨーロッパ…

188話 『地球の歩き方』とアーサー・フロマー その1

今回は、雑語林186話の続編ということになる。 インターネットで『地球の歩き方』を巡る話を探していたら、「卒業旅行と『地球の歩き方』の深〜い関係」(2007年3月16日)という文章を見つけた。ヤフーのブログ「勝手にメディア社会論」のなかの一編だ。 こ…

187話 ガイドブックで紹介される国々(3)

韓国旅行とガイドブック いずれ調べてみたいと思っているテーマに、「日韓関係と旅行の歴史」というのがある。まだなにも手をつけていないので、すでに誰かが調べているかもしれないが、それならそれで結構、自分で調べなくてもすむから楽ができる。 韓国が…

186話 旅行ガイドブックで紹介される国々(2)

地球の歩き方が選んだ国々 「地球の歩き方」は1979年に初めて姿を見せた。『地球の歩き方 ヨーロッパ編 1980年版』と、『地球の歩き方 アメリカ・カナダ・メキシコ編 1980年版』の2冊で、ダイヤモンド・スチューデント友の会編著、ダイヤモンド…

185話 旅行ガイドブックで紹介される国々(1)

ダイヤモンドハンディガイドの場合 ある出版社が、海外旅行ガイドブックをある程度まとめて出すとする。例えば第一期10冊 出すなら、どういう国を、どういう順序で出すかを考えるわけで、それは当然、売れるだろうと思われる順に選定しているはずだ。売れ…

184話 ザ・ガードマンの海外渡航(2)

ザ・ガードマンのシリーズに海外ロケをしたものがあると知ったのは、DVDの紹介を見た からだ。「TVシリーズ・リバイバル 『ザ・ガードマン』海外ロケセレクション(1)」(発売元スパック)というのがあるそうで、海外ロケをした6作が セットになって収め…

183話 ザ・ガードマンの海外渡航(1)

私はどうやら虚構というものが苦手らしい。小説を読まないだけではなく、テレビドラマも ほとんど見ていない。とくに、ウソ臭いことで知られる大映テレビのドラマ(だから大好きという人もいて、とにかくアクが強いものが多い)は、まるで受けつ かない。子…

182話 青江三奈から始まって(2)

別れの空港 歌謡曲の世界で、別れの場といえば、1960年代までは波止場、港、駅だろうが、70年代に入ると空港になるのだろうか。海外旅行史研究者としては、歌謡曲のなかの空港が気になっていた。 青江三奈の「国際線待合室」は、歌詞に「よその国」「…

181話 青江三奈から始まって(1) 

国際線待合室 録画したままになっていた青江三奈の特番(NHK・BS)をやっと見た。青江のファンと いうわけではないが、あのハスキーボイスは好みで、この番組を機会に、彼女の全貌を聞いて見ようと思ったのである。ヒット曲や、ニューヨークで録音した ジャ…

180話 国立国会図書館で遊ぶ(4)

ポケット文春と「ある記」 文藝春秋は創立40周年記念事業として、1962年9月に新書版の「ポケット文春」をだ した。当時の社名は文藝春秋新社だ。「ポケット」というのは、当時すでに発行されていた「ハヤカワ・ポケット・ブックス」や「新潮ポケット…