2027話 三輪自動車

画家にして、インド料理ユニット「マサラワーラー」のひとり武田尋善(たけだ・ひろよし)さんの自家用車に乗せてもらった。都内の住宅地をほんの数分走ってもらっただけだが、深い感慨はあった。車は、インドの三輪自動車バジャジ、前席でバーハンドルの握…

2026話 アルデンテ リゾットの話をする前に

リゾットの話をしようと思ったが、その前に片づけておかないといけない話題がある。 「パスタとスパゲティーって、どう違うの?」という質問を受けたからだ。そのレベルのことも知らない人がいるんだなとは思ったが、ネットにも同じ質問があって、それほど奇…

2025話 韓国 金属の食器

金属製食具の話をしていたら、韓国、歴史的なことで言えば「朝鮮」とした方がいいのだろうが、朝鮮半島の食文化のことが頭に浮かんだ。世間のヒンシュクを買う覚悟で言うが、韓国の食文化を語っている人は、ネットはもちろん雑誌や単行本でもあまたあるが、…

2024話 愛しい日本の食文化 私の場合

外国で生活していれば、日本の味を恋しく思うのはいたって普通で、その「日本の味」が狭義の日本料理を意味する人もあるだろうが、今なら広義の日本料理をさす場合の方が多い。広義の日本料理というのは、ラーメンや餃子や焼きそば、カレーにハンバーグ、鶏…

2023話 デリフーズ

その店には「Deli」という看板がかかっていたかもしれない。ニューヨークだ。デリカテッセンに初めて足を踏み入れたのはもしかするとヨーロッパだったかもしれないが、デリフーズというものをはっきり意識したのは、ニューヨークだった。歩道から、肉屋のガ…

2022話 家庭料理

バルト三国やチェコを旅していて、南さんに謝らないとなと思った。南さんとは、立命館大学教授の南直人さんのことだ。 南さんはドイツ史の研究者だが、歴史の中でも食文化史の研究に力を入れている。「ドイツの食文化?」と、いままで数多くの嘲笑を受けてき…

2021話 スージーQ

監督が崔洋一、沖縄が舞台と言うだけの情報で、「Aサインデイズ」(1989年)を見た。つまらない映画だなあと思いつつ、とにかく最後まで見て、これが『喜屋武マリーの青春』(利根川裕)が原作と知ったが、感慨はない。喜屋武マリーは、ロックバンドMarie w…

2020話 上を向いて歩こう

永六輔は最後まで放送作家だったと思う。それは、「正しいことよりも、おもしろいことを優先する」ということで、おもしろくない事実は、脚色しておもしろくするということだ。1を10にする場合もあれば、ときには0を20にすることもあるのだが、数多い永六輔…

2019話 新聞の読書欄

年の終わりに、新聞では2023年回顧をしていた。読書欄でも、書評委員によるこの1年の推薦書が数十冊紹介されているが、「読みたい」と思った本は1冊もない。書店で現物をチェックしてみようとか、ネットで目次を読んでみようとか、少しでも調べたいと思っ…

2018話 韓国のドラマと映画の話

韓国の俳優イ・ソンギュンが死んだ。自死らしい。決して名優とは思わないが、記憶に残る作品に出ているから、名前と顔が一致する数少ない俳優だ。 おそらく「コーヒープリンス1号店」と「白い巨塔」(どちらも2007)で、イ・ソンギュンの顔と名前を覚えた日…

2017話 韓国文化

2024年最初にCDデッキに送り込んだのは、昨年暮れに買っておいた“Beginners Guide to the World”だ。3枚組のセットで、アフリカ、アジア、中南米の音楽が42曲入っている。アジアが弱いが、それがヨーロッパ人の世界認識なのだとわかる。ヨーロッパにとって…

2016話 料理の油 その9(最終回)

油の原料 さまざまな油の製造に関して、ヨーロッパや中国や日本の歴史は少しは知っていて、もっと知りたければ資料も数多くある。しかし、東南アジアの油に関してはさっぱりわからない。 最初の油は食用ではなく明り用だろうと思うのだが、東南アジアでナタ…

2015話 料理の油 その8

韓国料理 朝鮮人と油の関係は、日本人の場合とあまり変わらなかったと思う。朝鮮では昔から肉をよく食べていたという人がいるが、誰もが日常的に食べていたわけではなく、山谷にクマやイノシシやシカなどの野生生物が数多く棲んでいたというわけでもないだろ…

2013話 料理の油 その7

精進料理 中国系タイ人の間で、年に1回、精進料理を作り、売り、食べる期間が秋にある。これをタイ語でキンチェーという。キンは「食べる」、チェーは中国語の「齋」で、精進料理を食べる期間をさす。この期間に中国人街やショッピングセンターの食品売り場…

2012話 料理の油 その6 

ビルマ料理 ラングーンで初めてその料理を食べて、「ああ、インドが近くなったな」と思った。その料理がウェッターヒンというのだということは後から知ったのだが、タイからビルマに入った旅行者には、インド亜大陸が近くなったと実感する料理だった。 深皿…

2011話 料理の油 その5

鶏油(チーユ) 銀座の中国料理店で、ニワトリの脂身から油を取り出すのがコックの見習いをしている私の仕事だった。ニワトリの皮や脂を鍋に入れて、弱火でコトコト加熱すれば出来上がりだろうと甘く考えていたのだが、ちょっとしたテクニックが必要だった。…

2010話 料理の油 その4 

中国料理 池袋で友人と会った。「まずは、飯を食うか」ということになり、友人が「ちょっとおもしろい店だよ」という店に案内された。その友人も、ちょっと前に知人に教えてもらったという。 池袋の、とくに北口方面はチャイナタウンと呼ばれている。横浜の…

2009話 料理の油 その3 

フランス料理 20年ほど前のことだ。高校時代の同級生がパリで旅行社に勤めているということで、彼のアレンジでフランスとスペインの旅行をしようと級友たちが団体旅行を企画した。私にも案内が来たが、もちろん断った。団体旅行をする気はない。ただし、この…

2008話 料理の油 その2 

オリーブオイル 2013年のアジア雑語林でこういうことを書いた。576話台湾・餃の国紀行(2013年12月27日掲載)の文章をそのまま再録する。私が書いた文章だから、著作権を考えなくていいのが楽だ。それはともかく、10年前の雑語林だと、まだ576話なんですね。…

2007話 料理の油 その1 (全9回)

マーガリン これから8回の予定で、料理の油の話をしてみようと思う。そのきっかけは、ユーチューブの料理動画だ。 料理動画をよく見ている。それは、「おいしい天ぷらの揚げ方とか、「簡単 イタリア料理」といった実用情報ではなく、外国の食堂や屋台の料理…

2006話 キンキの話

何の事前情報もなく見た韓国映画「オマージュ」が、よかった。佳作だ。高額ギャラのスターは出ていないが、顔つきがいい俳優が多い。カネも大してかかっていない。爆薬もカーチェイスも殺人もCGもない。タイムスリップも男女入れ替わりも財閥もない。それが…

2005話 サラリーマンとして大過なく

前々回に、目立つことを嫌う大学生は、大過なく過ごしたいサラリーマンに似ているというようなことを書いた。考えてみれば、大学生のほとんどは卒業してサラリーマン(もちろん、公務員もサラリーマンだ)になるのだから、志向がサラリーマン的であるのは当…

2004話 目立たないことと自己顕示欲 後編

若者は目立ちたくないのか。いや、違うなと感じたきっかけはSNSだ。 匿名の書き込みは、うさ晴らしにはなっても、自己顕示欲は満たせない。「オレだよ、オレ!」と、オレの存在を示したくても、オレは匿名だ。本名をさらして意見を言う度胸はない。氏素性を…

2003話 目立たないことと自己顕示欲 前編

大学で授業をするようになって気がついたことは、「のれんに腕押し」だった。授業中に質問や意見がない。学生はノートを広げ、何か書いている。「何か」と無責任なことをいうようだが、私はあまり板書はしないので、学生は私の話を聞いて要点をノートに書い…

2002話 たんなる通過点に過ぎないが その3

このブログでいくつかのテーマで記事を書いてきた。この機会なので、それぞれのテーマに関する全体像や問題点や希望などを書いておこうと思う。 ■旅行史・・・軍隊や探検隊などの団体の移動ではなく、目的地が定まった巡礼でもなく、気ままな自由旅行者が増…

2001話 たんなる通過点に過ぎないが その2

新しもの好きのあるライターは、ブログというものが話題になったとき、すぐさま手をつけたが、数回更新しただけで止まった。「どうしたの?」と聞いたら、「カネにならない原稿を書いてもしょうがないから」と言った。 私は「カネなんかいらない」と思ってい…

2000話 たんなる通過点に過ぎないが その1

今回で、連載2000回になった。ある記録に到達したスポーツ選手がよく口にするように、「数字はたんなる通過点に過ぎないので・・・」という感じはよくわかる。2000回書くことを目標にしていたわけではなく、書いているうちにいつの間にか2000回になっただけ…

1999話 最近読んだ本の話から その10(最終回)

■どうも、民俗学というものにあまりいい印象がない。例えば、住宅や農機具や農耕儀礼の話を展開しても、それは日本を出ない。農機具など、農作業をやる世界の全地域にもあるのに、日本のものしか取り上げないのが民俗学で、知の狭さにうんざりしているのだ。…

1998話 最近読んだ本の話から その9

■神保町を歩いていて、「そうだ、鉄道のトイレの本が出たばかりだったな」と思い出したが、正確な書名を思い出せない。新聞の書籍広告でちょっと見ただけだから、記憶が乏しい。三省堂があれば、コンピューター検索ができるのだが、目下新築工事中(まだ、取…

1997話 最近読んだ本の話から その8

■兼高かおるの第1作が新装復刊された。『世界とびある記』(ビジネス社、2019)で、元の本は、同じ書名で光書房から1959年に出版されている。日本人の海外旅行の資料として、書店で新装版を見つけてすぐ買ったのだが、巻頭に光書房版の表紙写真が載っている…