外国語のカタカナ表記
ずっと前から、韓国語(朝鮮語)のカタカナ表記について、文句を言ってきた。キムチはKIMUCHIではなく、KIMCHIのようにMに母音がないから、キムチのムは小さく表記すべきだというおかしな考えの人が韓国関係者に少なからずいる。
これについてなんども書いているが無視されっぱなしなので、また書いておく。子音だけで、母音がないからという理由で小さなカタカナで表記するなら、お 前らBOOKはどう書く? HOTでもHATでもいい、すべての外国語も同じように表記するなら、それはそれとして統一はとれているが、韓国語だけどうし てこういう奇妙な、独りよがりの、語学教科書みたいな表記をするのか。どうしてもやりたければ、教科書だけでやりなさい。
こういう話は以前に書いていることなのに、また書きたくなったのは、さっき新聞の映画広告を見ていて、「クォン・サンウ」という俳優の名が見えたからだ。
さあ、このコラムを読んでいらっしゃる皆さん、「クォン」は発音できましたか。韓国語の発音を知らない人が発音しようとすれば、「クオン」か「コン」に しかならないでしょ。「クォン」と「クオン」の違いをきちんと発音できますか。知ったかぶりをして「クォン」と表記したところで、「クオン」としか発音で きないじゃないか。
韓国人名の変なカタカナ表記はどれだけあるだろうかと思い、『韓国映画俳優事典』(韓国「スクリーン」編集部編、田代親世監修、久保直子訳、ダイヤモンド社、2005、2200円)の人名索引にあたってみた。変だと思うのを書きだしたので、発音してみてください。
アン・ソックァン(アン・ソックアンとどう違う)
キム・イングォン(キム・インゴンではない発音はできましたか)
クァク・ジミン(カク・ジミンでしょ)
チェ・グァンイル(どうしても、チェ・グアンイルと発音してしまうでしょ)
そして、クォン姓の俳優が7名並んでいる。
つまり、クァ、クィ、クゥ、クェ、クォがいけないのだとわかる。なまじハングルが読めるものだから、日本語のことよりハングルからカタカナへの移し変えに神経がいってしまうのだろう。
いまではもう昔の話になったが、タイ語でもこういう表記をする人がいた。『食は東南アジアにあり』を書いた星野龍夫さんだ。汁物の総称「ケーン」を 「キェーン」などと表記していた。実際に聞こえてきたタイ語をカタカナで表記することにだけ神経を奪われ、日本人の発音には気を配れなかったのだ。 「キェーン」なんて、どうがんばったって「キエーン」か「ケーン」としか発音できないじゃないか。タイ語にしても、韓国語にしても、その言語ができる人ほ どヘンテコリンなカタカナ表記をしたがる。これは、外国語学習に熱心なあまり、日本語に対する配慮ができないからだ。
アジアの言語だけの話ではない。「ヴァレー」とか「ヴァイオリン」などと表記する無神経さと同じだ。かっこつけて「ヴィトン」などと書いたって、日本人 は「ビトン」と発音しているのだし、もし、日本人が日本語の会話の中でV音をそのままV音で発音したら、おかしいだろ。「ヴァラエティ」などと表記してい る人が、「エレベーター」とか「オーバー」などと書いている。変だろ。そして、フランス語やデンマーク語やその他多数の言語でも、B音とV音の違いをカタ カナで書き分けるのか。できっこないよ。
おまけの話。
『韓国映画俳優事典』は、韓国で出版された本の翻訳だから、構成は基本的に韓国版のままだろう。だから、韓国での映画俳優の地位がよくわかるので、おもしろい。
アン・ソンギは序文も書き、最初のページに登場し、紹介に2ページ使っている。重鎮だから、当然だ。チェ・ミンシクも2ページで、同じような2ページグ ループにはチャン・ドンゴン、イ・ヨンエ、イ・ビョンホンなどが入っているが、チェ・ジウやペ・ヨンジュンは1ページだ。ソ・ガンホも1ページだが、2 ページ組に入れてやりたい。脇役から出発したから無理なのか。
テレビ俳優より映画俳優を重視することも、こういうページ構成になる。最初から日本で編集すればまったくちがう構成になるはずで、そういう意味でこの韓国版をおもしろく点検した。