187話 ガイドブックで紹介される国々(3)

  韓国旅行とガイドブック



 いずれ調べてみたいと思っているテーマに、「日韓関係と旅行の歴史」というのがある。まだなにも手をつけていないので、すでに誰かが調べているかもしれないが、それならそれで結構、自分で調べなくてもすむから楽ができる。
 韓国が外国人観光客を受け入れるようになったのは、1964年10月からだそうで、64年の入国者数は2万5000人、73年には68万人になってい る。64年の観光客受け入れ解禁に際して、ウォーカーヒルができたのが、1963年だった。このあたりの、朴政権下の対外政策や経済政策をさぐり、観光政 策と結びつければ、修士論文くらいにはなる内容だろう。奥は深いのだ。
 さて、まずは手始めに、ガイドブックから日韓関係を探ってみよう。戦前期はともかく、戦後の韓国旅行のガイドブックで、1970年代末までのものを国会図書館の蔵書からリストを作ってみた。
 もっとも古いのは、『東南アジア』(日本交通公社、1966年)である。なぜ、「東南アジア」か。詳細を調べると、この本の正しいタイトルは、『東南ア ジア 韓国』らしい。私が持っているのは、1981年版のワールドガイド『東南アジア 韓国 インド』(1972年初版、日本交通公社)で、扱っている国 を登場順に書き出すと、韓国、香港・マカオ、フィリピン、シンガポールインドネシア、タイ、ビルマ、マレーシア、インド、ネパール、スリランカである。
 何か国分かをまとめたなかに韓国ガイドが入っているということなら、おそらく『外国旅行案内』(日本交通公社、初版は1952年)が最初だろう。しか し、手元の1956年版には韓国のガイドはない。その後の版では1968年版しか手元になく、これにはもちろん「大韓民国」として、10ページほどのガイ ドがついている。
 1970年代末までの時点で、一冊すべてが韓国ガイドになっている本を、リストにしてみる。

1972年 『韓国の旅』(ワールドフォトプレス
1973年 『グリーンガイド 韓国』(山ノ内一夫、秋元書房)
1974年 『ブルーガイド 韓国の旅』(実業之日本社
      『韓国旅行ガイド』(花曜社
      『パントラベルガイド 韓国』(パン・ニューズ・インターナショナル
1975年 『韓国』(日本交通公社
1977年 『韓国史蹟仏蹟ガイド』(東出版)

 パントラベルガイドというのは、すでに忘れ去られたガイドブックかもしれない。じつは私 も、昔から知っていたガイドではない。アジア文庫の小冊子「アジア文庫から」に連載しているわがエッセイ「活字中毒患者のアジア旅行」で、アジアの古いガ イドブックをお持ちの方はゆずってくださいと、だいぶ前にお願いしたことがある。
 すると、奇特な読者がいらっしゃって、すぐさまアジア文庫にガイドブックを何冊か送ってくださった。その一冊が、『パントラベルガイド12 東南アジア の旅』(初版1969年、1972年改訂第4版、パン・ニューズ・インターナショナル)だった。いま、また改めて、御礼申し上げます。
 このガイドブックを見て、「ああ、あの出版社か」と思い出した。『ニューヨーク25時』(森田拳次)の出版社だ。この本は1970年代に買って読んだと 思う。発売年を確認したくて国会図書館の蔵書検索をしたが、出てこない。パン社のガイドに森田の『ニューヨーク』というタイトルのガイドブックは見つかる が、『ニューヨーク25時』は見つからない。私の勘違いかと思ったが、パン社の『東南アジアの旅』には、書影つきで広告が出ているから、タイトルに間違い はない。この書名で、グーグル検索してもでてこないのはどうしてだろう。森田といえば、「丸出だめ夫」などで知られる有名漫画家で、仕事を中断して2年間 ニューヨークに行ってしまったのだった。
 話を戻す。地球の歩き方が欧米中心路線で始まったのに対して、パン社のガイドはアジアもやや力点を置いている。
 というわけで、例によって、資料として、パン・ニューズ・インターナショナルのガイドブックリストを、国会図書館の蔵書分から紹介しておこう。改訂版は省略する。


1965年 シンガポール・ガイド。東南アジアの旅。
1969年 グァム・ミクロネシアの旅。
1970年 アメリカの旅
1974年 ニューヨーク。アラスカの旅。カナダの旅。ヨーロッパ。韓国。
1975年 南太平洋。ハワイ。
1976年 フィリピン。パリ。
1977年 海外ハネムーン。
1979年 アメリカ西海岸
1980年 香港マカオ。台湾。オーストラリア。
1981年 シンガポール・マレーシア。

 パン・ニューズ・インターナショナルという会社は、1985年8月刊の『芹沢博文の娘よ』を最後に、出版界から姿を消している。どうなったのか、その後の噂を耳にしない。