193話 「世界の秘境シリーズ」人物中心飛ばし読み その1

 
 近所の古本屋に寄ったら、店頭に古雑誌が山と積んであった。ほこりまみれの古雑誌を点検 していたら、「世界の秘境シリーズ」(双葉社)があった。全部で13冊、1冊100円だ。保存程度がよければ、1000円から1500円くらいが相場らし いが、この13冊はかなり痛んでいたり書き込みがあったりするので、捨て値の商売というわけだろう。
 この雑誌は、おそらく正式には「ノンフィクションマガジン 世界の秘境シリーズ」(以下、「世界の秘境」と略)ということになるだろう。創刊の1962年には月刊誌で、のちに季刊となって、72年の100号で終わっている。
 「ナショナル・ジオグラフィック」のような民族誌のコレクターだった大学生が、双葉社の編集者になって、会社の命令で作らされたのがこの雑誌だ。写真は 「ナショナル・・・」などから勝手にいただき、文章は翻訳かでっちあげたものが中心で、それにちゃんとした署名原稿が加わる。書き手は海外事情に詳しい学 者やジャーナリストで、無署名の海外ネタのエロ原稿は、新聞記者などのアルバイトだろうと思う。
 編集長竹下一郎は60号まで出して退職し、大陸書房を設立した。竹下氏と「世界の秘境」については、『ニッポン秘境館の謎』(田中聡、晶文社、 1999)という名著があるので、そちらを参照してもらいたい。著者のインタビューに答えて、「インチキだった」と元編集長が認めている雑誌だ。
 いつか外国に行きたいと思っていた前川健一少年は、書店でときどき立ち読みし、たまに買うこともあった。のちの「川口探検隊」のような胡散臭さを売り物 にする記事は好みに合わないが、海外旅行の記事が出ているというだけでうれしかった。私よりちょっと年長の平尾和雄さんは、勤め人をしながらこの雑誌を読 んで海外への夢を膨らませていたと、『スルジェ』(旅行人)で書いている。アジアやアフリカや南米などに興味を持っている1960年代の青少年は、雑誌 「世界の秘境」やテレビ番組「すばらしい世界旅行」に心を動かされたはずだ。
 近所の古本屋で買ってきた13冊の「世界の雑誌」を発行年別に整理してみようと思ったが、簡単ではない。奥付けのようなものがない。表紙などに「○年△ 月号」といった表記がない。裏表紙に小さく書いてある「第2巻第8号・・・」とか「第三種郵便物・・・・」の部分を見なければいけないのだが、すれていて よく見えない。それでもなんとか工夫をして、一応の整理ができた。通巻表示は「号」ではなく、「集」になっている。
第2集  1962年5月号  特別レポート 南太平洋・謎と魅惑の島々
第8集  1962年11月号 特集 廃墟は生きている!
第11集 1963年2月号 特集 『失われた大陸』を求めて
第14集 1963年5月号 特集 中部太平洋の秘めたる島々
臨時増刊 1963年9月号 特集 人食人種の世界
第23集 1964年2月号 特集 幻想のアラビア沙漠とその周辺
第26集 1964年5月号 特集 ベンガル湾からインド洋へ
第31集 1964年10月号 特集 カイバル峠から隊商の国へ
第35集 1965年2月号 特集 南海の楽園ポリネシア
第36集 1965年3月号 特集 漂流船その戦慄の記録
第39集 1965年6月号 特集 アラスカからアリューシャン
第43集 1965年10月号 特集 “喰人の島”ニューギニア
第51集 1966年6月号 特集 インドの未開種族

 というわけで、次回から執筆者中心に内容を追ってみよう。今回を含め、全5回の資料紹介だ。