289話 「世界 それぞれの最高峰」というテレビ番組

 テレビ局では、まず採用されそうもない企画だろうが、ぜひ見たい番組がいくつもある。そのひとつは、「世界 それぞれの最高峰」という番組だ。
 7000メートル級の登山記録といった番組は、いままでに何回も放送されている。高い山は、それだけで絵になるから、頭を使わなくても、体力と登山技術さえあれば、製作費はかかるものの、とにかく番組にはなる。「頭をつかわなくても」という表現にカチンと来た人もいるだろう。登山者はもちろん頭を使うが、番組制作者は、次のような番組を作るよりは、たいして頭を使わないだろうと言う意味だ。
 低い山を取り上げることにすると、番組は簡単には作れない。製作費は安いし、登山技術もいらない。生死にかかわる危険性もない。そういう利点はあるのだが、頭を使わないと、見ごたえのある番組にはならない。
 例えば、平地の国オランダの最高峰は、どんな所だろう。全国土が埋立地という印象を強調して番組を作って来たのが、いままでのオランダ取材番組だった。ところが調べてみれば、オランダの最高峰フォールス山は、ドイツやベルギーとの国境地帯にあって、標高は322m。日本の各都道府県の最高峰でもっとも低い山は、千葉県の愛宕山(408m)で、「だから、オランダの最高峰はいかに低いか」と思う人があるかもしれないが、無知な私は「オランダにも、山があるんだなあ」という印象だ。
 この、オランダ最高峰フォールス山を相手に、1時間の番組を作ろうとすれば、歴史や動植物など、ありとあらゆる情報を集めて、取材し、構成を工夫し、有能なレポーターを起用しないと、どうにももたない。だからこそ、おもしろそうな番組が生まれそうか予感がするのだ。高い山番組から低い山番組への転換というのは、運動部的番組から文化部的番組への移管である。別の言い方をすれば、「探検部や山岳部的番組よ、さらば」だ。体力と金銭まみれの、数十人から100人を超える大登山隊番組から、頭を使ったハイキング番組に変わったら、さぞかしおもしろいだろうと思うのだ。NHKでは、実際にハイキング番組があったが、大しておもしろくなかった。その原因は、出演したタレントに頼り過ぎていたことと同時に、歩くことに重点を置いたワンダーフォーゲル部的番組だったから、私の好みに合わなかったのだ。企画と発想が「まとも過ぎて、おもしろくなかった」といえば、わかってもらえるだろうか。
 この「世界 それぞれの最高峰」という番組のおもしろいところは、高い山などないという印象だった国に、わりと高い山があるという事実を知るきっかけにもなることだ。
 例えば、ポルトガルはオランダほど平坦な国という印象はないが、高い山があるというイメージもない。しかし、調べてみれば、アゾレス諸島のピコ島にあるピコ山は、なんと2351mもある。タイも平坦な国と思われているが、最高峰はドイ・インタノン(2465m)。タヒチ(フランス領)は火山島だということは画像で知っていたが、最高峰はどのくらいなのか調べてみれば、オロヘナ山は2241mもある。
 それでは、サウジアラビアの最高峰はとか、ギリシャの最高峰はと調べていけば、少しは世界の地理を知っている私でも、けっこう意外な印象があり、おもしろい番組になりそうな予感がする。
 テレビ局や番組制作プロダクションの方々、「予算は低いが、教養は高い。インパクトは少ないが、おもしろさは多い」という番組を考えてみませんか。もう、NHK的大取材班海外特番は、やめましょうよ。テレビ番組制作会社のテレビマン・ユニオンなら作れると思うのだが、さて、いかがでしょう。