311話  1970年の世界料理 2/4

 『日本万国博覧会 公式ガイド』の食事案内のページは二か所に分かれていて、「日曜広場」など広場のレストランと、それぞれの国の展示館内のレストランに分けて紹介している。当然、開催前に作ったガイドだから、情報があまりに乏しいが、とにかく紹介してみよう。(  )内は、そのレストランで出す料理として記載されている情報を原文のまま書き移す。
●広場・売店
韓国―政府直営、オーストラリア(ハンバーグステーキ、ラムチョップビーフカツ)、ポルトガルポルトガル料理、ブドウ酒)、チェコスロバキア―政府直営、ギリシャ(サーロインステーキ、ポークチョップ)、ソ連
国際バザールでは、フィリピン(フィリピンビール、とり料理)、ギリシャ(サンドイッチ、ビーフシチュー、のみもの)、マレーシア(マレーシア天ぷら、マレーシア料理、くだもの)、カナダ(万博カナディアンサービス500円、カナダビール)、中華民国(モンゴリアンバーベキュー、ポークヌードル、くだもの)、ベルギー、ワシントン州七面鳥丸焼き、西部アメリカ風ビール)、インド―政府直営。
●各国展示館内食堂編
中華民国(本場中国料理)、オランダ(オランダ風仔牛のカツレツ、にしん、チーズ・ハムのサンドイッチ)、ソ連(ロシア料理、グルジア料理、ウクライナ料理、その他の民族料理)、ベルギー、ドイツ、スイス(かおり高いアルプスのチーズを使ったスイス料理)、ニュージーランド(ラム、マトン料理、ビール、ワイン、魚、くだもの)、フランス(フランス料理)、ブルガリア(めずらしいブルガリア料理)、トルコ(コーヒーショップ)、ポルトガル(本場のポルトガル料理、ブドウ酒)、フィリピン、アルジェリア(伝統的クスクス、菓子、ブドウ酒)、スカンジナビア(バー、サロンタイプ)、ビルマビルマの農村ふうのレストランでめずらしいビルマ料理)、チェコスロバキア(本場のピルセンビール、160年来秘伝の薬草酒ベヘロフカ)、セイロン(本場のセイロン紅茶、セイロン料理)、インドネシアインドネシアふうの調度に囲まれたレストランでの料理)、ウガンダ(コーヒー、紅茶)、パキスタン(色彩豊かな民族衣装の給仕がサービスするめずらしいパキスタン料理)、インド(カレーなどインド料理)、ベトナム(風味あるベトナム料理)、イタリア(スパゲッティ、ヌードル、ピツアなど純イタリア料理)、アルゼンチン(名物の牛肉料理、ワイン、スナック)、イラン(コーヒーショップ)、香港(カントン料理)、ケベック州ブリティッシュ・コロンビア州(新鮮なフルーツジュース、ホットドッグ)、ミュンヘン市(ビール、ソーセージ、じゃがいも、サラダなどのドイツ料理)。
 箇条書きのリストをただ書き移しただけだが、大いに好奇心が刺激される。ビルマ料理店やベトナム料理店があるが、タイ料理店がない。1970年代は、アジアの中でタイはまだマイナーな国だったのだ。それはともかく、1970年の日本で、このくらいバラエティーに富んだ料理が食べられた。音楽でも、ベトナムの歌手カン・リーポルトガルのアマリア・ロドリゲスのコンサートもあり、いままでとは違った文化が流れ込んだ時代だったことがよくわかる。だからこそ、各レストランの詳しい料理内容がわからないのが、なんとも残念だ。万博オープン前に作ったガイドブックではなく、開催中に取材した雑誌記事でも読まないとわからないので、いまはわからないままにしておく。ちなみに、雑誌「anan」の創刊はこの年。「るるぶ」は73年の創刊。日本万国博覧会記念機構のホームページには、「当時の展示館のご紹介」という記事があって、各国ごとの展示館紹介にわずかながらレストラン紹介もあるが、ここで加筆するほどの情報量はない。
 スカンジナビア館のレストランは、フィンランドスウェーデンノルウェー3国の共同運営とはいえ、580席というのは大きすぎる。ベトナムは25席だ。各国展示館内食堂リストのなかで、「アメリカン・パーク 500席」というのがある。アメリカン・パークはアラスカ州やロサンゼルス市のほか、アメリカの企業などが出品する共同展示館だ。そのなかの食堂が、のちの日本の食文化に大きな意味を持ってくるという話は、次回。