322話 60歳はどう見えたか

 このアジア雑語林の320話で、「若すぎる死」を書いて間もなく、田中好子の死の知らせを聞くとは、なんたる巡り合わせだ。「まだ、若いよなあ」と思いつつも、范文雀は54歳、美空ひばりは52歳で亡くなったし、田中の義姉である夏目雅子は27歳で亡くなり、堀江しのぶは23歳だったなあと、若くして亡くなった人のことを思う。今の私から見れば、「おばさん」のように見えた美空ひばりさえも、いまでは年下になってしまうのだなあ。ましてや、ひばりがなくなった1989年当時の若者、つまり1970年前後生まれの若者にとっては、ひばりは完全に母親の世代なのだ。
 先日、夫も妻も私と同年齢の夫婦を取り上げたテレビ番組を見ていたら、夫いわく「来年、定年を迎えたら、孫たちと毎日遊べるのが楽しみです」などとしゃべっていて、子も孫もいない私は、「はあ〜、世間というのはそうなんだねえ」と、世間一般からすれば、ずれた感想を抱いたのだった。
 そんなことを考えていたら、いまの大学生世代から見て、定年退職寸前のおっさんはどのように見えるのかということを、自分の記憶で確かめてきたくなった。私が20歳のころに、60歳前後だった人は、どんな人だったのか調べたくなったのである。私より40歳くらい年上の人で、60歳前後ころの映像を記憶している人を探してみた。この「60歳前後ころ」というのはまことにあいまいで、誤差が激しいが、そういう誤差はここでは気にしない。
 インターネット情報を使えば、私よりも40歳くらい年上、つまり、1911年、1912年、1913年あたりに生まれた有名人を探すのは簡単なのだが、私が知っている人で、しかも画像(動画とは限らない)を記憶している人となると、そう多くはない。20歳頃の私は、旅行資金を稼ぐのに夢中で、カネがちょっとたまると旅行をしていたから、テレビをほとんど見ていない。そういう細々とした記憶のなかから、かつて若者であった前川健一が見た「今の私世代」の人たちだ。個々の人物について、解説はしない。わかる人だけわかればいい。でも、まあ、じーさんだなあ。
 1911年生まれ
吉田義夫(俳優)/鈴木善幸メイ牛山加東大介児玉誉士夫岡本太郎藤山一郎/西山千/花沢徳衛石津謙介高田浩吉
 1912年生まれ
三国一朗/森敦/壇一雄森川信戸川幸夫/古谷綱正/新藤兼人桜内義雄/大友柳太郎/糸川英夫/喜屋武真榮/成田知巳佐野周二清川虹子武智鉄二葦原邦子
 1913年生まれ
林健太郎加藤嘉扇谷正造/二代目尾上松緑金田一春彦/大宮敏光/森繁久彌横井英樹/入江徳郎/田崎潤家永三郎丹下健三宮口精二堺駿二/中田ダイマ