343話 NHKブックスが輝いていた時代   1/2

 近頃、NHKブックスをほとんど読んでいない。「もう、NHKブックスはなくなったのだろうか」と思って調べてみると、今も新刊が出ていることがわかった。その程度の認識しかないということだ。
 その昔、外国といっても欧米ではなく、アジアやアフリカに興味を持っていた高校生にとって、NHKブックスは入門書として愛読していた時代があった。その後も読み続けたが、ここ何年も、おもしろそうな本があまり出なくなり、しだいに読まなくなった。
 NHKブックスにはどんな本があったのか、その全貌を知りたくなったが、出版全リストが手元にないので(そういう資料が現実に存在するのかどうかも不明)、国会図書館所蔵書から、NHKブックスを出版年順にまとめたリストを作ってみた。創刊がいつなのか知らなかったが、どうやら1964年らしい。東京オリンピックの年であり、海外旅行が自由化された年だ。この年、全部で17冊出版されていて、『カラコルムへの道』(加藤誠平)、『松本亨・英会話の旅』(松本亨)、『英語のバックグラウンド』(桜庭信之・末永国明)といった本がリストにある。英語関連の本があることで、オリンピックや海外旅行といったい文化接触の時代背景がよくわかるラインアップだ。創刊年に出た17冊のうちの1冊が、私が初めて買ったNHKブックスで、これも異文化接触に関する本だ。
 64年に出た『ニッポン四百年―外国人の見聞』(岡田章雄)を買ったのは、66年だ。新刊書をどんどん買える経済力はなかったので、おそらく神田の古本屋の店頭ワゴンで見つけたのだろう。以下は、買った時代順ではなく、出版年順に、記憶に残る書名を書き出してみた。かなり読んでいるはずだが、読んだことも忘れている本も多いので、ここではあくまで読んだ記憶のある本だけを書きだした。読んだことさえ忘れている本は、学校の図書室で借りた本に多いように思う。
米食・肉食の文明』(筑波常治、1966)
『稲作以前』(佐々木高明、1971)
『東南アジアの少数民族』(岩田慶治、1971)
『料理の起源』(中尾佐助、1972)・・・この本は、その後も何度か読み返し、アジアの食文化への好奇心と、基礎知識と与えてくれた。
黒人文学』(北村崇郎、1972)・・・70年代前半、アジアへの関心と同時に、アフリカやR&Bなど黒人音楽に対する関心から、アメリカの黒人文化の本をよく読んでいた。そのときに読んだマルカムXが、のちに注目を浴びるとはまったく思えなかった。
『アジア留学生と日本』(永井道雄・原芳男・田中宏、1973)
『祖霊の世界』(飯島茂、1973)
『沙漠』(小堀巌、1973)・・・さばくは、映像でよく見るような砂の世界だけでなく、実際は岩がごろごろとした乾燥地がほとんどなので、「砂漠」ではなく「沙漠」と表記するのが正しいとする説がこの本に出ていたのをよく覚えていて、私も従っている。
『海洋民族学』(西村朝日太郎、1974)・・・著者の名が変わっているので、読んだことを覚えているが、内容の記憶はない。太平洋地域に対する私の関心は、極めて低い。
『パゴダの国へ』(長沢和俊、1975)・・・初めてビルマに行ったのは70年代末だったと思うので、この本を読んだのは80年代に入ってからだろうと思う。ビルマの雑学をいろいろ仕入れた。
スマトラの曠野から』(落合秀男、1975)
 国会図書館のリストを見ていて、ここで目が止まった。『フルベ族とわたし』(江口一久、1975)という本にまったく記憶がない。本屋で見かけていれば、「ひどいなあ」と思わない限り、絶対に買っているはずのテーマであり、著者なのだ。それなのに買ってない理由は、この本が「NHKブックスジュニア」という新シリーズの1冊だったからだろう。児童書を読む気はないので、初めから無視していたようだ。
『果物のたどってきた道』(永沢勝雄、1976)
『牧夫フランチェスコの一日』(谷泰、1976)・・・いまさらいうまでもなく、名著。食文化の資料も得た。
『エジプト史を掘る』(吉村作治、1976)・・・この本は買っても、『シルクロード・幻の王国』(長沢和俊、1976)を買わなかったのは、中央アジアにはほとんど興味がないからだなあ。
 長くなるので、続きは次回。