479話 突然思い出した忘れえぬ話 その2

 もう20年以上も外国を旅している日本人が、食べ物と日本人について語った。
 「インド亜大陸とかアフリカとか中南米だと、日本料理しか受け付けないというヤツは、どんなに無理をしてもひと月以内に日本に戻る。日本料理はなくてもいいが、あれが食いたい、これも食いたいとかいつも思っているヤツは、まあ、半年から1年で日本に戻る。飯なんか、腹がいっぱいになればいいんだと思っているヤツが、過酷な地域を何年でも旅行できる」
 この話を蔵前仁一さんにして、「そういえば、蔵前さんも、アジア&アフリカを長期間、旅をしたことがあったよねえ」と付け加えた。
 「何? 僕は食べ物をエサだと思っているとでも言いたいわけ? 失礼な! 僕だってねえ、料理の味はわかりますよ!」
 その蔵前さんが旅先で出会った苦手な料理は、中部アフリカの市場で見かけたサルの姿干し。「あれは、無理だ。人間の赤ん坊を連想させるんだもん」という蔵前さんの話を田中真知さんにすると、「僕は平気だなあ。ほかに大した食べ物がないし」。
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 数年前、蔵前仁一さんのブログ「編集長のーと」で、彼が料理を始めたことを知った。料理なんかしない人だと思っていたので意外だった。インドファンの彼だから、カレー作りに凝っているらしい。そこで、はげましのメールを送った。
 「どんなククレカレーができるのか楽しみです。料理手順と、完成写真をブログに載せてください」
 折り返しメールが来た。
 「失礼な! 僕が作っているのはククレカレーじゃなくて、ケララカレーです。レトルトカレーとスパイスを組み合わせてちゃんと作っている(セットになったのを買って来たんだけど)カレーと、混同しないように!」とお叱りを受けた。私はてっきり、ククレカレーにトマトや牛乳などを入れたアレンジ料理を作っているものだと思っていたのだが、失礼しました。
 薩摩育ちの蔵前さんは、「男が食べ物のことで、ぐちゃぐちゃ言うもんじゃない」という教育を受けたせいなのか、旅行記でもインドの食べ物以外はほとんど語らない。親の教えをきちんと守っているからだろうか。