495話 メモ 日本人の韓国旅行事情史 5/5 英語の韓国旅行ガイド

 このシリーズは「日本人の・・・」となっているが、韓国の旅行ガイドを調べ始めた行きがかり上、英語のガイドブックも調べておきたくなった。英語のガイドブックは国会図書館の蔵書リストから検索しても無駄だとすぐにわかったので、手元にある本から調べ始めることにしよう。現在でも、私は英語の韓国旅行ガイドを1冊も持っていないので、まずは「韓国も紹介しているガイド」から探すことにする。
 “All~Asia Guide”(Far Eastern Economic Review)の1980年版には、アジアの1国として、South Koreaのガイドが30ページほど載っている。ちなみに、Northの方は6ページの記事だ。ロンリープラネットでは、どうだろう。手元の”South-East Asia on a Shoestring”を調べてみると、1977年版の巻末広告には「Korea」の文字はないが、82年版の巻末広告を見ると、”Korea & Taiwan −a travel survival kit”が出ていることがわかるが、初版がいつかはわからない。
 手持ちのネタはこれでおしまい。アマゾンで英語のガイドを調べたが大した成果は得られなかったので、英語の古本サイトThe Abe Books で調べることにした。
 http://www.abebooks.com/
 韓国の旅行ガイドは600冊以上ヒットしたが、出版年順にリストを組み直すことができないので、うんざりしながら読んでいくのだが、素人の売主は出版年という基本情報を無視して出品していることが少なくないので、{詳細}をクリックしても、何の情報も得られないとうんざりだ。
 というわけで、書名などを頼りにコツコツと調べてみた。本の内容を確認できないので、誤解があるかもしれない。古本のサイトに載っているリストなので、正確さには大いに問題ありだが、一応メモとして書き出しておく。
 おそらく戦後初の英語のガイドは、“A Pocket Guide to Korea”( 1956)だろう。朝鮮戦争の休戦が53年7月だから、「観光旅行」という時代ではない。この本には62年版もあるので、毎年出版していたのかもしれない。このガイドの版元が、じつに興味深い。Armed Forces Information and Education,Dept.of Defence、つまり米軍が出したのだ。「アメリカ軍」という表示はないが、韓国軍ということはないだろうから、これはやはり米軍内の部署の出版物だろう。出版年を見て「もしや・・」と思ったら、やはり。朝鮮戦争後に韓国に駐留している米兵や軍関係者用のガイドだろう。売値は送料を入れて2000円もしないのだから、欲しくなったが、内容のレベルがわからない。ベトナム戦争中に出た米兵用のタイ旅行ガイドは、バンコクで手に入れている。内容的にじつにおもしろいのだが、韓国編は、さてどうか。個人旅行者用に詳しい情報を載せた最初のヨーロッパガイドが、米兵用に作った”The GI’s Guide to Traveling in Europe”(1955)で、これが売れたので著者が次に出したのが“Europe on 5 Dollars a Day”(Arthur Frommer,1957)だ。ここから世界的に有名な「アーサー・フロマー」のガイドブックに発展していった事を考えると、「米軍と旅行ガイドブック」というのも重要な研究テーマになることがわかる。まだまったく手をつけていないが、1950年代の英語による日本旅行ガイドも、もしかして進駐軍関係者の手で出版されていたのかもしれない。
 そういえば、その昔、東京駅の丸の内側、中央郵便局や「はとバス」乗り場に一番近い出口近くの売店は、英語の新聞や雑誌を多く揃えていて、そこで“Bachelor’s Japan”という日本歓楽ガイド本を見つけたことがある。買わなかったので、その本の詳細はわからない。いま、インターネット古書店で調べてみると、このガイドは何度も増刷改版されてきたことがわかる。90年代にも出版されているが、初版がいつかわからない。この古書店のリストでは1962年版がもっとも古い。それが初版なら、進駐軍とは関係ないことになる。
さて、話を戻して次の韓国ガイドブックだ。アジアを舞台にしたハリウッド映画のようなうさん臭い表紙のガイドブック、”Sunset Travel Guide to the Orient”(Sunset Pub.)は、調べた限りでは1975年版が一番古い。日本、韓国、台湾、香港、マカオ、中国のガイドが入っているらしいが、「中国」部分の内容がわからない。
 http://www.amazon.co.jp/Sunset-Travel-Guide-Orient-Taiwan/dp/0376066318/ref=sr_1_1?s=english-books&ie=UTF8&qid=1364432119&sr=1-1
 “Fodor’s Japan and Korea”(Fodor’s)は、古本リストのなかで最も古いものは1977年版。韓国が単独で出てくるのは、すでに紹介した56年の”A Pocket Guide”のあとは、“ Insight Guide Korea”(Insight)の1983年版だ。ツアー客用のガイドブックは、おそらくこのほかにもいくつも出版されているだろうが、きりがないのでいちいち調べない。個人旅行者用ガイド、あるいはバックパッカー用のガイドと言った方がいいのかもしれないが、そういう本では”The On-Your-Own Guide to Asia 1979-80 ―The Budget Handbook to East and South-east Asia”(Tuttle)がリストに載っていた。この本は出版当時に東京で買っているので、ウチのどこかにあるはずだが、行方不明。捜索する気力がないのは、「東・東南アジア」のなかの韓国情報なので、どっちみち大した情報量ではなかったはずだからだ。実物を見たことがないのだが、”On Your Own: Air Siam’s Student Guide to Asia”(Tuttle)が、1976と77年に出ていることがわかる。扱う国は、日本、韓国、台湾、香港、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポールインドネシア。この本と、オーストラリアの学生団体が出版した”Student Guide to Asia”が以前から「欲しい本リスト」に入っているのだが、内容のレベルがわからずに買うには高すぎる。「あれ?」と、今思った。”Student Guide・・・・”? なんだか、その昔に買った記憶がかすかにあって、小学生時代からつけている書籍購入リストで確認すると、あった! 1978年9月15日に、”Travel on the Cheap”や『ねむれ巴里』(金子光晴)といっしょに買っている。う〜む。捜索隊を組織するか。78年9月と言えば、銀座でコックの見習いをやっている時だから、英語の本2冊はイエナで、『ねむれ巴里』は近藤書店か旭屋で買ったのだろう。記憶に残っていないということは、個人旅行の基礎を説明した網羅的な内容だったので、「重要書籍」とは思わなかったのだろう。
 ロンリープランネットが韓国を扱うのは、すでに書いたように”Korea & Taiwan a travel survival kit”で、その初版はどうやら1982年らしい。韓国単独になり、”Korea a travel survival kit”となるのは、1988年。「サバイバル・キット」がはずれて、ただの”Korea”になった初版は、1990年。”Seoul”は1998年らしい。
バックパッカー用のガイドブックでは他に、”Let’s Go to Korea”(Franklin Watts)が、1985年、”South Korea Handbook”(Moon Travel Handbooks”は、1989年が初版らしい。
 というわけで、日本語・英語とも、1980年代後半から徐々に旅行ガイドブックが出版されている。それは当然ながら、88年のソウル・オリンピックと関連はあるのだろうが、「これで大儲け!」とばかりに、嬉々として出版したようでもないし、売れた気配もない。1980年代の韓国は、日本人も欧米人も、バックパッカーが旅行地にする観光地ではなかったことがよくわかる。1970年代末に韓国を旅行したときの私のガイドブックは、”International Youth Hostel Handbook”だった。まったくの偶然で韓国に行くことになったので、「韓国用」というわけではない。どこに行くか目的地を定めない旅だったので、多くの国で使えるユースホステルガイドを持っていたというわけだ。たとえ韓国の旅行ガイドを持っていきたくても、まだ出版されてないのだから、持って行きようがない時代だったのだが・・・。
 これで終わる予定が、終わらなくなった。次回がホントの最終回。