535話 日本のインド料理店

 日本のタイ料理店を調べたら、ほかの料理店事情も知りたくなった。日本の外国料理店でもっとも多いのは中国料理だということで、ほぼ間違いないと思う。次はイタリア料理か韓国・朝鮮料理かは、わからない。概数を知る手だてはあるのだが、調べてもあまり面白そうではないので、今回はインド料理店事情を調べてみることにした。情報源は「食べログhttp://tabelog.com/だ。
 このサイトで全国のインド料理店を調べてみたのだが、タイ料理店事情を調べた時と同じように、「どこまでインド料理店」とするかという定義の問題がある。例えば、北海道には「ネパールのカレー屋さん」という店が2店ある。店名から、「これはインド料理ではなく、ネパール料理店だ」と判断したら、間違えてしまう。店の料理を見れば、北インド料理が中心だとわかってくる。したがって、ある店が「インド料理店であるかどうか」という判断を個々の店について私がやるのは面倒なので、食べログの分類に任せることにした。したがって、「この店が、インド料理店か?」という疑問が出てくるかもしれないが、それを誤差として一応調べてみた。
 タイ料理店のときと同じように、都道府県別インド料理店数トップ10を書きだしてみる。(  )は店舗数
1,東京(1025) 2,神奈川(269) 3,愛知(266) 4,大阪(259) 5,埼玉(203) 6,千葉(186)
7,兵庫(151) 8,茨城(91) 9,福岡(79) 10,京都(64)
 先に総数を書かなかったのは、私の驚きを伝えたかったからだ。日本のインド料理店は、なんと3263店。東京だけで1025店と知って、1000店弱のタイ料理店総数と比べてその多さに圧倒されたのだ。私の頭の中では、インド料理店とタイ料理店はいい勝負の店舗数ではないかと想像していたのだが、東京のインド料理店だけで、全国のタイ料理店を抜いている。カレー専門チェーン店はこのジャンルには入ってないようだが、支店がいくつもある店は、それぞれの支店を1店舗として数えている。
インド料理店が少ない県は、こうなる。(   )内は店舗数。
 島根(2)、鳥取(2)、福井(3)、鹿児島(4)、岩手(5)、徳島(5)、秋田(6)、和歌山(7)、高知(8)、山形(8)
 以上が現在のインド料理店事情なのだが、過去の数字も知りたいという気になってくる。想像だけでいうのだが、1960年代なら、東京にあるインド料理店は5軒もあっただろうか。日本でもっとも古いインド料理店である銀座のナイル、そして九段のアジャンタ、銀座のアショカの3軒はすぐ頭に浮かぶが、そのほかとなるとじっくり調べてみないとわからない。新宿中村屋のようにカレー(カリー)を出す店はあり、カレー専門店は他にもあったが、インド料理店という名にふさわしい店はまだ少ない。1970年代でも、それほど大きな変化はなかっただろう。インド料理も、ほかのアジア料理同様、1990年代のエスニック料理ブーム以降ということになるようだ。私の東京散歩の印象でいえば、ここ10年ほどで急に増えたような気がする。
 私の個人的印象ではなく、少しは実証的に調べてみた。日本経済新聞の電子版2011年12月12日「インド料理店増えているって?」http://www.nikkei.com/article/DGXDZO37150680Z01C11A2W14000/
を読むと、こんなことがわかる。NTTのタウンページ調べでは、「インド料理」に分類されている店は、2011年には1443店ということで、上記「食べログ」の数字とは大幅に異なるが、「2007年の4倍に増えている」というから、増加傾向ということは確かなようだ。私の想像の「ここ10年ほどで急に増えた」どころか、ここ5年で急増したらしいとわかる。インド料理店急増の理由を、多くのインド人IT技術者が日本で生活するようになったからだとしているが、私はこの説をあまり信用していない。インド料理店の客の多くが日本人だからだ。日本在住インド人とインド料理店の増加に関係はもちろんあるが、直接の理由ではないような気がする。多くのフィリピン人やバングラデシュ人やイラン人が日本で生活するようになっても、それぞれの国の料理店が急増したわけではない。食材店は増えたが、料理店急増という方向に向かわなかった。家庭で食事することが多いからだ。
 日本でインド料理店が増えた基本的な理由は、ネパール人の料理人が増えたからではないかという気がしている。「インド料理が大好き」という日本人側の需要に、ネパール人料理人が応えたという図式が浮かぶ。インドで修業を積んだインド人料理人よりははるかに安く雇える人材システムが完成しているからであり、日本での飲食商売の事情に詳しい人が多く、インド料理店を出そうと思えば比較的簡単に開店できる状況にあるというのが、私の想像である。