537話  だいぶ前とちょっと前の海外旅行の話  その1

 旅から帰ってきたが、旅の話は長くなりそうなので、すぐにはアップできない。「行った、見た」というだけの文章ならすぐ書けるが、調べものをしてから書くとなると、ちょっと時間がかかる。旅の話を書いている時間は、すでに書き溜めておいた文章を発表することにする。しばし、待たれよ。

 ネット古書店の商品リストに『海外旅行ABC』(三上操、現代教養文庫、1961)を見つけたので買ってしまった。我が家に大捜査隊を派遣すれば発見できるはずだが、その手間を考えたら、古本屋に数百円を支払ったほうがいい。
 この本を買ったのは1967年、中学3年生のときだとはっきりと覚えている。その本を買った翌日に、数学教師の尋問を受けたからよく覚えているのだ。嫌な教師だった。偏狂で独善的で粘着質だった。その教師は、小学校1年生以来算数・数学が嫌いな私を標的にしていた。ある日の授業中、数学ができないにもかかわらず予習も復習もやらない私に腹を立ててなのか、前日の放課後からの行動を事細かに尋問し始めた。
「学校を出て、どこにも寄らなかったのか」
「本屋に寄りました」
「本を買ったのか」
「はい」
「何という本を買った」
「『海外旅行ABC』という本です」
「今、おまえは何をやらなければいけないのか、わかっているのか! そんな本を読んでいていいときなのか、考えてみろ! はい、それから、それで家に帰って・・・・」と、尋問が延々と続いた。授業中に、私を立たせての集中攻撃だった。
 この尋問を覚えているから、その本のタイトルも覚えているのだ。この教師のせいで、中学3年生時代は、軽いノイローゼになっていた。「もうすぐ卒業だ」という気持ちが、心の救いだった。もし1年か2年のときの担任がこの教師だったら、私は登校拒否をしてひきこもるか、街で遊び回るか、親に転校を頼みこんだかもしれない。この教師のせいで、数学はいっそう嫌いになり、受験勉強にも身が入らなくなった。ただし、外国に行きたいというのは受験勉強からの逃避ではなく、小学生時代からの私の夢だった。
 さて、この本、『海外旅行ABC』だが、内容はまったく覚えていなかった。だから私には初めて読むのと変わりはない。この本はちょっと変わった構成の本で、九州大学教授の著者が経済人6人とともに。1960年か61年に欧米を50日間視察旅行したときの旅行記の体裁をとりつつ、これから海外旅行をする人たちへのガイドにもなっている。著者は旅行中に詳細なメモをとっていたらしく、各種料金などこまかい話も数多く出てくる。まずは雑多な話のなかで、ぜひ紹介したいのはロンドンのパチンコ屋のことだ。私は1974年に、インドネシアスマトラ島のメダンでパチンコ屋を見ているのだが、まさかロンドンにもあったとは。
 著者が繁華街のピカデリーサーカスを散歩していると、遊技場らしきものが目に入った。「日本のパチンコ屋みたいに大規模ではなく、入口も狭く、電灯も暗いが、射的、コリントゲームなどに混じってパチンコが10台くらいある」。台には「ウィンとロストの文字を記した穴がならんでいる。ウィンに入ればタバコがもらえる仕組みだと見える。まず、1ペニーの銅貨をスリット(細い孔)に入れるとタマが1つコロコロと下の穴に出て来る。これをはじくわけで・・・・」という説明を読んで、調べてみると、これはパチンコの原型であるウォールマシンと呼ばれている機械らしい。私がスマトラで見たのは、日本のパチンコ台だったから、ロンドンのこの機械とは違う。1ペニーは4円で、タバコ1本は7円というから、損することは明らかなゲームだ。
 http://www.next777.com/vintage/pachinko_story/ 
 さて、次回は、カネの話と見送りの話。