555話 台湾・餃の国紀行 16

 台湾映画

 台湾でしたかったことのひとつは、台湾映画を見ることだったが、残念ながら私の滞在中の台北では、台湾映画は上映されていなかった。韓国と違って、現在の台湾では映画の製作本数が極端に少ないのだ。台湾人が台湾映画に興味がないから、作っても興行的に合わないのだ。しかたなくというわけでもないが、テレビで台湾映画を見つけると、途中からでも見た。
 その映画は、途中からではあるが、まだ始まって間もないようだった。体操が得意な少年が、「体操なんて、カネにならない。八百屋の仕事を手伝いなさい」と母親に言われて、体操をやめて無為な日々を送っていると・・・と言うところで、宿のテレビが壊れてその先がわからない。のちに、DVD屋でこの映画は「翻滾吧! 阿信」とわかった。
http://jumpashin2011.pixnet.net/blog/post/77777575-%5B-podcast-%5D%E3%80%8C%E7%BF%BB%E6%BB%BE%E6%8A%8A%EF%BC%81%E9%98%BF%E4%BF%A1%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%9E%97%E8%82%B2%E8%B3%A2%EF%BC%88%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB
 もっともおもしろかったのは、体操をやめさせられた信少年がぐれて、スクーターを乗りまわし、タバコを吸うシーンに、「タバコは健康に害があります」という表示が画面に出たことだ。それなら、殺人シーンでも駐車違反でも警告が必要だろうに。日本のテレビドラマの場合はどうかと注目していたら、喫煙シーンに警告の表示もボカシもなかった。タイだと、多分喫煙シーンはカットだな。
 もう少しマシなテレビでみたのが、「陣頭」。
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2012/02/post-2aa0.html
 これは偶然にも、ほぼ最初から、最後まで見た。悪くはないが、特にいいわけでもないというところかな。ネットで調べると、台湾では好評だったらしい。番組表を見て、映画を探したわけではない。散歩の都合で、何時に宿に戻るかわからないのだから、予定など立てない方がいい。この2本の映画は、宿に戻り、テレビの電源を入れたら、始まっていただけのことだ。
 さてと、と考えた。映画館で台湾映画が見られないなら、いよいよDVD探しを始めるか。これまた散歩中に偶然に見つけた、西門町のCD・DVDショップ佳佳唱片に立ち寄った。棚にあるすべての台湾映画を点検すると、買いたい作品が何本かあった。日本時代から1960年代くらいの古い映画がおもしろそうだなどと考えて、いろいろ店を見てから買うことにした。一番欲しかったのは「牯嶺街少年殺人事件」(エドワード・ヤン)のDVDだ。すでにテレビで見ているし、VHSに録画したのだが、DVD化されていれば買っておこうと思ったのだが、なぜか台湾でもDVD化されていない。
 店名を忘れたが、西門町の別の店にも行った。台湾映画の棚をじっくり見ていたら主人が近づいてきて、「これと、これは日本語の字幕がついてますよ」と英語で話しかけてきた。日本人は侯考賢(ホウ・シャオシェン)が大好きだろうという判断で、日本語字幕付きの特別盤を勧めてきたが、私はそれほど好きではない。彼の映画は現代史の参考資料にはなるが、退屈だからだ。それはともかくとして、映画を知っている人のセールスは、楽しい。日本のCD・DVDショップで、外国人に英語で商品解説ができる店長がどれだけいるだろうか。
 帰国間際になった日の夕方、善導寺の国家電影資料館に行った。ここで台湾映画のビデオテープやDVDを見ることができるのだが、もう見る時間がない。そこで、台北で一番のDVDショップを教えてもらった。市民大道と新生北路が交差するところにある光華商場3階のDVDショップがいいという。「おお、これはすごい品ぞろえだ」と感動したくて行ったのだが、扱うDVDの点数は佳佳唱片とほとんど変わらない。誠品書店でもDVDを扱っているが、それほどの品数はない。日本同様、新品であれ廃盤になった中古であれ、DVDやCDは、ネットショップで探すのがベストなのかもしれない。
 翌日、中山北路の台北之家に行った。ここも台湾映画の殿堂と考えていい場所のはずだが、圧倒的な品ぞろえではなかった。つまり、それほど多くのDVDは発売されておらず、品切れになればそれっきりということだろう。数十年以上前の作品はかなりDVD化していて、多分あまり売れないからだろうが、まだかなりの数がそろっている。それに反して、ここ十年かそこいらの作品だと、なかなかDVDが手に入らない。
 台北之家のホールで映画を2本見た。1本は台湾映画で、「加油!男孩」(がんばれ! 男の子)http://blog.goo.ne.jp/royc19811014/e/0d88abfe55031ed3f93e8a9208aeca69
 2003年の台中の小学生の話とその10年後の現在の話。製糖業が衰退した台中が舞台なのだが、まあ、特にどうということもなし。10年前の台中の小学生は携帯電話を使っていたんだなあなどと思って見ていた。
 もう1本は、「そして、父になる」(是枝裕和監督)。日本映画に台湾人客はどういう反応を示すか知りたかった。映画が始まってだいぶたって、日本映画なのに、いつもクセで字幕を読んでいる自分に驚いた。日本語の会話を聞いていなかった。クセとは恐ろしいものである。さて、20人ほどの観客はと言うと、これがひどい。上映中もスマホで何かを読んでいる男がいて、私の目の前が明るくなるので注意した。上映中にケータイの呼び出し音が鳴り続け、音が切れたと思ったら、ナントしゃべり始めたぜ。「今、映画見ているから・・」といった短い会話ではなく、しばらく話していて、さすがにほかの席から「しーっ!」という声が聞こえて、電話を切ったが、数分後にまた電話呼び出し音がなって、また話し始めた。ああ。こういう無作法はしないという行為なのか、客がやたらに席を立つ。外で電話したり、メールを読んだりしているのだろう。だから、出はいりが激しい。この台北之家には映画ファンが集まる場所で、普通の街の映画館ではない。それでも、こうだ。台湾だけでなく、世界はデジタルバカに占拠されてしまった。
 それはそうと、台北之家小ホールの責任者兼映写技師のような人物の顔がいい。木村祐一のよう雰囲気の人物で、私は最初の回をひとりで見て、最後の回にまた行ったので、顔が合うと、あの顔で笑顔。「また来たのかい」。その顔がいい。