561話 台湾・餃の国紀行 22

 台湾雑話 その3




●Easy Cardは関東のSuicaのようなカードで、MRT(地下鉄)やバスに使えるカードだ。このカードが日本の同様のカードよりもはるかに優れているのは、運賃が2割引きになることだ。しかも、MRTからバスに乗り継ぐと、バス料金が8元安くなる。日本では、乗らないと移動できない客の足元を見て、何十万円分、何百万円分使おうが、割引きは一切ない。台湾、万歳!
●MRT車内では、当然ながらスマートフォンタブレットを手にして、じっと眺め、メールを打ったり何かを読んだりしている人が多い。ふと思ったのは、私も含めて、日本人はパソコンやメールを使うようになって、漢字が書けなくなったとよく言われることだ。私なんぞ、手書きで漢字を書くのが恐ろしいくらい、漢字を忘れた。漢字ばかりの台湾でも、「漢字を忘れた」という人が当然増えているだろう。漢字を忘れたら、日本ならカタカナ・ひらがなで書くが、台湾人の場合は、忘れた漢字は、同じ音の漢字か、ローマ字か注音記号で書くようだ。
●MRT車内での飲食は禁止されているが(駅構内でも)、通話は禁止されていないから、話している人はいる。しかし、あまり気にならないのは、風切り音など電車の音がうるさいのと、客の話声がうるさいからだ。ただし、路線と時間帯にもよる。
●高雄から宣蘭(イーラン)まで、鉄道で7時間ほどの旅をした。私の後ろに座っていたのが、ドリアンを持ったおばさんふたり。まあ、大声で、よくしゃべり、よく笑い、よく食べる。5時間はしゃべり続けて、やっと降りた。あれは、拷問だった。
●鉄道で台湾一周ができるようになったのは1991年なので、78年の旅はバスを使うことのほうが多かった。鉄道路線が伸びると同時に廃線になるところもあり、淡水線などは乗っておけばよかったと思う。やはり、MRTよりも鉄道で行ったほうが風情がある。乗っておいてよかったと思うのは阿里山線だろう。崖崩れなどでもう何年もほとんど不通になっている。
●意外といっては失礼かもしれないが、歩行者は交通信号をよく守っている。罰則が厳しいのだろうか。『台湾人には、ご用心』(酒井亨、三五館、2011)によれば、2007年ごろから歩行者は信号をよく守るようになったという。その理由は、日本人を見習ったのだというが、具体的な法律やマナー向上運動などの事例は書いてない。歩行者のマナーは良くなったが、交差点の運転マナーに関しては不合格だ。右折車が横断歩道を歩いている人の列に突っ込んでくるのは、怖い。多分罰則はないのだろうが、MRTの博愛座(老人や障害者や妊婦に対する優先席)は、満員の車内でも空席のままということが多い。「自分よりも年寄りに」という譲り合いの精神が強く、周囲の監視の目が厳しいように思う。
●台湾はスクーターの国だ。昔はオートバイの国だったが、しだいにスクーターに変わった(スクーターもオートバイの1種だが、区別して書き分けるのが難しいので、「スクーター」と「オートバイ」というふうに書きわける)。スクーターが多いなか、オートバイはどのくらい走っているのか調べてみたら、数百台に1台程度だ。路肩に駐輪場があるので、百台でも、一気に調べられる。オートバイは、もう20年以上前から乗っているじいちゃんのバイクと言うのが多く、これはただのオンボロバイクだ。私だって、ただの汚いバイクと、マニアのバイクの違いを少しはわかる。大型のスクーターも、それほど多くない。警察のバイクも、一部のいわゆる「白バイ」を除けば、白いスクーターだ。いろいろネット情報を読むと、150cc未満は無税らしい。しかし、テレビで「ハーリー・デイビッドソン!」というCMはよく見る。盛んに広告する程度の需要はあるのかもしれないが、街で見かけたことは1度もない。
●『B級グルメが見た台湾』(文藝春秋編、文春文庫、1989)を見たら、89年当時はオートバイが今よりも多かったと思える写真があった。「ああ、そうか!」と気がついた。バイクに乗っている人の多くは、ヘルメットをかぶっていない。だから、その後、1997年にヘルメット着用が義務化されたことによって、ヘルメットが収納できるスクーターに移行していったというわけだろう。それはそうと、この文庫はよくできていて、おもしろいガイドだ。どうしてこういう本が今は出ないのかというと、店紹介と買い物情報にしか興味のない人だけが、台湾関連のガイド本を買うからだ。
●私が映画プロデューサーなら、スクーターをテーマにした台湾映画を企画する。「スクーターと台湾人」というエッセイでも論文でも、小説でもおもしろそうだ。それくらいネタになりそうなのが、台湾のスクーターなのだ。経済史や外交史は当然だが、調べてみれば、台湾のナンバープレートの歴史でさえ、ここでは詳しくは書かないが、政治史でもあるとわかる。ナンバープレートを眺めながら散歩すると、「あれ?」と気がつくはずだ。「台湾省」と「台北市」という表示のあるナンバーだ。もう一方の二輪の国ベトナムは、カブ型のバイクが一般的だ。
バンコクでもときどき出会うのだが、台湾でもラッシュ時に歩道を走り抜けていくスクーターがいる。のんきに歩道を歩いていると、突然目の前にスクーターが現れることがある。
●鹿港と高雄で、三輪自転車(輪タク)を見かけた。シンガポールやマレーシアなどと同じように、観光客用の乗り物になっていた。日本時代から走っていた三輪自転車が禁止されたのは、1967年だということを、本屋の立ち読みでわかったのだが、82年に埔里の裏通りを走っている三輪車を見ているので、地方の小都市ではその時代まで残っていたのだろう。今回、鹿港で見た観光用三輪車は、よく見ると座席の下にモーターが見え、どうやら電動アシスト式になっているらしい。