627話 パソコン導入直後 その4

 Amazonの日本版は2000年の創業らしいが、その初期はもちろん知らない。新刊書をネット通販で買う気はなかったし、そもそも通販そのものとは縁が遠かった。避けていたと言ってもいいが、すぐにインターネットで古書を買うようになった。
 通販を怖がっていた私が、どういういきさつでネット古書店の世界に足を踏み入れてしまったのか、私の肩や腰を押したのは誰なのかという話は、当時すでに書いている。2004年のアジア雑語林47〜52話の6回分だ。
 http://www.asiabunko.com/zatugorin41_50.htm
 新刊書専門の初期のアマゾンは、私には用のないものだったと思う。アマゾンで個人が売る「マーケットプレイス」ができるのはいつのことか知らないが、まずは「古書店 アジア」とか「古書店 インターネット 旅行」などと検索し、専門古書店を探していた。ネット販売もやる古書店や、楽天で古書を買い始めた。古書店によって、注文すると本に請求書と振込用紙を同封してくる後払い型と、代金を振り込んだことを確認してから本を発送する先払い型があり、どちらにしろ、しばしが郵便局に通うことになり、それが面倒で、また振込手数料もかかった。
 楽天の古書販売サイトは、その出店数では当時なかなかのものだった。出店している古本屋にはプロもいたが、素人も多く、出品のフォーマットができていなかった。売り手が素人だと、著者名や出版社名が書いてなかったり、出版年のないものも少なくなかった。読み手も素人ならそれでいいのだろうが、ネットで買う場合に本の情報がないのは困ったものだ。そういえば、ISDNの時代は、古本のリストを見ていて、次ページの数字をクリックしても、文字だけのページなのに、じーーーーーーーーーっと、数分間待っていないとページが変わらないことがあった。
 楽天の古本サイトが突然なくなり、古書店が運営する個別のサイトを巡航するようになり、しばらくしてアマゾンのマーケットプレイスに移ったようだ。これで、支払いはクレジットカードになり、振込みの手間がなくなった。今は、アマゾンが中心で、そこで見つからない本を、「スーパー源氏」や「日本の古本屋」で探す。
 アマゾンで初めて本を買った時のことを思い出した。新刊書を買ったのだと思う。あのころはまだ、「1-Clickで買う」と言うのはなかったか、あるいは知らなかっただけかもしれないが、「購入する」をクリックしたら、住所などさまざまな情報を書かなければいけなかった。記入して、最終的に「購入する」をクリックしても、「注文が確定されました」という表示がでるまで時間がかかった昔のこと、うまく注文ができなかったのだろうと思い、もう一度「購入する」をクリックして、注文は2冊になってしまった。本は2冊あってもしょうがないから、あわてて1冊をキャンセルしたことがある。初めての注文だから、当然いままでキャンセルなどしたことがないのだから、「大変なことをしでかした」とびっくりして、深夜にハラハタドキドキ、パソコン相手に苦闘した。
 アマゾンをよく使う理由のひとつは、外国語の本が買いやすいということもある。その昔、銀座に外国語専門書のイエナ書店があった時代、レジ脇には植草甚一専用棚があったという。外国に注文していた本が届くとその棚にのせておき、植草が来たときに受け取っていくというのだ。常に数多くの本を発注していて、到着しだい順次受け取っていくという話を聞いて、イエナではごくたまに買うだけの経済力と語学力しかない私はうらやましくてしょうがなかったのだが、アマゾンなら植草甚一と同じことができる。
 実は、実際にすでにやっている。外国の書店から送料込みで1000円以下で買える本がいくらでもあり、日本語の本と違い、「この先、またこの本が手に入るかどうかわからない、この値段で買えるかどうかわからない」という不安感で、通販購入制御装置が不能になり、ついつい多めに注文してしまうのだ。注文から到着するまで10日程度から数か月かかることもあり(入荷次第発送という場合だ)、大きな時間差で到着するので、注文したのを忘れたころに到着するという楽しさもある。