629話 パソコン導入のちょっと前 ――フロッピーディスクとブログ

 引出しを整理していたら、使用済みと、大量の未使用のフロッピーディスク(以下FD)が出てきた。もはや時代遅れの燃えるゴミだと思い、情報が入ったままのものも含めて、きれいさっぱりと捨ててしまった。
 かつては、原稿は原稿用紙にBのエンピツか2Bのシャープペンシルで文章を書き、郵送していた。そのあとは、ワープロ専用機で書き、プリントアウトして、郵送していた。急ぐ場合はファックスを使うこともあった。手書きやプリントアウトした原稿だと、受け取った編集者が自分でパソコンに入力しないといけないので(大会社ならアルバイトがやっただろうが)、その手間を考えると気の毒で、FDを郵送するようになった。原稿はワープロ専用機と感熱紙が担当するようになり、原稿用紙は不用になった。買い置きしてあった原稿用紙はA4サイズだったので、その裏をコピー用紙として使った。
 もうすっかり忘れてしまったが、FDにもいろいろあり、しかも「もうなくなりますよ。今のうちに、まとめて買っておいた方がいいですよ」という旅行人編集部のアドバイスで、秋葉原で大量に買ったものが、引出しの中に入っていたFDだ。私が送ったFDを読めるワープロ専用機がないという編集部もあり、「パソコンがあるなら、メールで原稿を送ってください」という編集部もあって(旅行人は、こういうことは言わなかった)、他人に迷惑をかけてはいけないという親の教えを守り、原稿はメールで送ることにした。その結果、買い置きしておいたFDがゴミになったのである。当然ながら、ワープロ専用機もゴミになった。私が使っていたのは譲り受けたものだが、新品なら定価19万8000円もする高級機だった。作家の加賀乙彦など、今でもワープロ専用機で原稿を書いている人が少数いる。原稿を書くだけなら、ワープロ専用機の方が書きやすいと今でも思う。
 ここ数年でゴミになったもうひとつのものは、デジタル放送非対応のDVDだ。50枚入りパックがゴミになった。インターネットの動画をコピーするようなことはしないので、テレビ番組を録画できないDVDはいらないのだ。プリンターを買い替えて、買い置きしておいたインクがゴミになったという話はすでにした。
 もうとっくにこの世から消えたと思っていたFDをテレビドラマで見た。池井戸潤原作の銀行ドラマ「花咲舞が黙っていない」(日本テレビ)で、銀行の顧客リストをFDで保存しているシーンが出てきて、「おお、まだあったか」と驚いた。ネットで確認すると、このシーンが気になった人が多くいたようで、書き込みがいくらでもある。ただし、私がFDだと思ったのはMOらしい(FDだという聞き込みもあるが・・・)。皆さん、「今時、こんなの使っているの?」という驚きを書いている。私も驚いて、デジタル事情に詳しい友人にこの話をしたら、「あまりにマイナーだから、コンピューターに保存しておくよりもかえって安全なんだよ」という説明だった。銀行だけでなく、公官庁でも同様らしいが、私の知らない世界だ。
 この「アジア雑語林」も、アジア文庫のHPで公開していた最初のころは数回分をFDにコピーして郵送していた。それからだいぶたって、ワードで書いた原稿を、メールにコピー&ペーストして送っていた。「旅行人」の原稿は長いので、添付ファイルのやり方を編集長にメールで教えてもらい、その操作法を印刷したものを常に手の届くところに置いておいた。そうしないと、すぐに忘れてしまうからだ。
 「アジア雑語林」がアジア文庫から旅行人のHPに移るとき、天下のクラマエ編集長からのアドバイスは、「しょっちゅう更新しようと考えると大変で続かないから、まあ、気楽にやればいいですよ」というので、「田中真知さんの更新回数よりは多くしたいと思っています」と答えた。
 「それじゃだめだよ、あの人と比べて、超えられるかどうかという更新頻度じゃ」と言ったあのころは、クラマエ師は真知さんよりもはるかに頻繁に更新していたのだが、今ではツイッターの人になった。
 原稿の質はともかく、更新の回数だけは、真知さんやクラマエ編集長を超えている。それは、私がおふたりよりもずっとヒマだということだ。