644話 きょうも散歩の日 2014 第2回

  さて、目的地だが

 

 この雑語林の第637話で書いたように、旅行地の候補のなかで、「よし、決めた!」と仮決定したのがインドだったが、『地球の歩き方 インド』も買ったというのに、「インドに行きたい、よし行こう」という熱意は、ガイドブックを読んで数日で消えた。数か月前から「行きたい」と感じて候補地に決めていたのは台湾、インドネシア、インド、スペインの4か国で、まずインドが落ちた。台湾は昨年行ったばかりで、どうせまた行くのは決まっているから、今回の候補地からは外した。というわけで、インドネシア(おもにジャワ島)VSスペインの戦いになったが、スペイン料理を食べたくなったという理由で、スペインが仮の候補地に決定された。このときは、またポルトガルに行ってもいいなという気持ちもあった。
 この決定の裏には、昨今の航空券事情が反映している。日本から西に飛ぶ航空券は、カタール航空エミレーツ航空の安売りによって、どこへ飛んでもその料金はあまり変わらなくなった。日本からジャカルタに飛んでも、ヨーロッパに飛んでも、その料金はそれほど変わらない。そこで急に気が変わり、ほかの地域の航空券事情も知りたくなった。中南米に行こうか、久しぶりにサンフランシスコかニューヨークに行こうかなどと考えて始めて、世界各地の航空券情報を調べた。結局、乗り換えが複雑でなければ、日本から遠い国のどこかの都市に行っても、航空運賃は大きく変わるわけではないらしいとわかってきた。だから、旅行総費用ということでいえば、滞在費の額を考えたほうがいいということになる。
 あれやこれやと旅行地を考えたが、結局、バルセロナ往復の航空券を予約・購入を決定した。私の日程にちょうど合うカタール航空の航空券を一番安く売っていたのは、なんとJTBだった。どこに行くのであれ、JTB(当時は日本交通公社)でキップを買うのは、1975年にシベリア鉄道経由のヨーロッパ片道旅行のキップを買って以来ということになる。到着地をマドリッドではなくバルセロナにしたのは、以前ポルトガルに行ったときにマドリッド以西はすでに旅しているので、今度はスペイン東部、カタルーニャ地方を中心にしてみようと思ったからである。この時点で、ポルトガルにまた行くという案は消えた。
スペインの本をまとめて読んでみた。カタルーニャでひと月過ごすのは退屈そうで、どこかに脱出するとすれば、北に上がってフランス? いやそれはない。フランスに興味はない。アムステルダムにはぜひともまた行きたいが、遠い。いや距離はどうにでもなるとしても、もうすっかり寒い晩秋のオランダなどには行きたくない。それでは、イタリア? イタリアに行くなら、初めからイタリアだけを旅することにする。またしてもポルトガルが頭に浮かんだ。好きな国だからまた行ってもいいが、新鮮味はない。それならば・・・とスペインの地図を見ていて、南にモロッコがあることに気がついた。いままでスペインを旅していて、「モロッコに行きたい」といつも思ったが、時間切れで断念していた。 「よーし、モロッコだ!!」と意気込んで交通事情を調べた。
 旅行方法は3種類ある。
 その1、バルセロナとモロッコを飛行機で往復。
 その2、片道を飛行機、片道を陸路と海路。
 その3、往復とも陸路と海路。
 旅のおもしろさでは、その3の往復陸路と海路だが、時間がかかりすぎる上に、カネもかかる。バルセロナからモロッコマラケシュまで、安い航空券を調べたら往復で3万5000円くらいする。片道で2万5000円くらいだから、カネのことを考えたら往復飛行機を使うのが一番安いのかもしれない。しかし、それはもっともつまらない移動手段だ。片道を陸路と海路で行っても交通費がだいぶかかりそうだ。スペイン最南端に行くだけでも、バス代よりも航空運賃の方が安いかもしれない。
 出発の前夜になってもモロッコ旅行の概要が決まらなかったが、それはいつものことで、ルートを決めて旅行をしたことなどない。
 ふと、スペインにもLCCがあるはずだとひらめいた。調べてみれば、Vueling(ブエリング)という航空会社があり、バルセロナマラケシュの片道運賃を調べてみた。バルセロナ到着の翌日出発の便で、87ユーロ(以下€と表記。1€=140円で考えてください)。諸経費を合計して、98€だ。よし、すぐさま購入。これで決まった。バルセロナ滞在20時間ほどで、マラケシュに飛び、モロッコを旅してスペインに戻る。そういうコースの旅が明日から始まる。
 よし、もう一度、大声でVamos ! !