685話 きょうも散歩の日 2014 第43回

 雑話いろいろ その6


■韓国人や台湾人や中国人の団体旅行客を見ていると、いつの日か、彼らに混じってインド人観光客がぞろぞろと世界の街を歩くようになるのだろうかとふと思った。中国のように経済状況が向上し、中産階級が増大すると、海外旅行をしようと考える人が一気に増える可能性がある。人口12億なら、そのわずか5%が海外旅行をするとしても、6000万人だ。しかし、と疑問に思う。例えば、手元の100万円を家族旅行に使ってしまおうと考えるインド人がどれだけいるだろうかという疑問だ。収入や財産との比較の問題ではない。収入が多くても、外国旅行に行こうと考える民族と、そうは考えない民族がいる。インド人はやや後者ではないかというのが、インドについてまったく素人の私の感想である。だから専門家の意見を聞きたい。ひとつ言えることは、インド人の海外旅行は、イスラム教徒のメッカ巡礼のように旅行システムを確立しないと、食事などいろいろ面倒な文化障壁があって、個人客なら何とかなっても、大人数だと難しい問題も多いだろう。
バルセロナの地下鉄車内で、マンガを読んでいる人に初めて会った。私はマンガに疎いのだが、20代OL風のその人が読んでいる画面を覗くと、おそらく日本の少女マンガのスペイン語版だろうと察しがついた。本、CD,電気製品などを扱うチェーン店Fnac(フナック)に行くと、マンガ売り場には”Manga”と表示があり、棚の"Manga”は”shonen”と”shojo”とに二分割されていて、スペイン語や英語の表示はない。マンガの棚は「マンガ」と「コミック」は分けられている。日本のマンガそっくりな画風のマンガが韓国などアジアにはあるが、西洋人にはマンガは描けないのではないかと思った。どうしても、アメリカン・コミック風の絵になってしまう。
■地下鉄車内で人々は何をしているのか。「何もしていない」が多数派で、日本と違って大多数がスマホを見ているということはない。通勤時にざっと見まわして、車内に20人。そのうち、スマホ1人、電子書籍専用機で読書1人。タブレット1人。新聞1人。本を読んでいるのは3人。新書や文庫本などない国なので、車内で大判の厚い本を読んでいる光景が私の目には珍しい。地下鉄ではなく、郊外からの電車だとどうなるのかという調査はやっていない。
バルセロナの地下鉄車内で、「スリにご注意」という日本語のアナウンスが流れた。毎日のように地下鉄に乗っていたが、そのアナウンスを聞いたのはその時のたった1度だけだ。帰国後にしらべてみたら、日曜日に2ルートの地下鉄車内だけで流れているというから、運が良くないと聞く機会はないかもしれない。「スペインは、治安が悪い」という話はガイドブックに出ているし、知り合いの旅行業者もそういう話をしていた。スペインを旅している日本人団体客と雑談したら、「非常に危ないですから」と、勝手な行動をしないように添乗員から厳重に注意を受けたという。だから、スリ、かっぱらいなど、本当に注意が必要なのだろうが、私自身は「危険だ」と感じたことはない。
■バスは地下鉄駅などで買ったバス・地下鉄共通回数券を使うか、運転手からキップを買って利用するのだが、車内にある自動改札機にキップを刺して、「乗車」の記録をする。トラム(路面電車)の場合は、バスと共通の回数券か、トラムの駅にある自動販売機で乗車券を買い、車内にある自動改札機で、自分の手で「乗車」を記録する。車掌は乗っていないから、ただ乗りは簡単にできそうだ。しかし、もし検札時に乗車券をもっていないか、持っているが「乗車」の記録がないとわかると、かなり高額の罰金が徴収される。トラムに乗るたびに、客が自動改札機での乗車記録をちゃんとしているかどうか観察してみると、不正者がひとりいた。アラブ系らしき若い男で、財布から回数券を出したが、改札機に入れるふりをしただけで、また財布にしまった。
 ちなみに、カサブランカ(モロッコ)のトラムは、日本の鉄道のように駅に自動改札機があって、乗車券をかざして、バーを押して入場する。乗車券や回数券は、駅近くの路上に設置された自動販売機で買う。多くの駅には、駅員がいる。機械は、アラビア語、フランス語、英語(スペイン語があったかどうか覚えていない)での操作を選べるから、外国人でも使いやすい。
■数年前のスペイン情報を読んでいると、「1ユーロは100円で換算」などと書いてあって、悔しい思いをした。2014年秋は、140円になっていたからだ。40パーセントの値上がりだから、節約しても、1日1万円の予算では無理だった。バルセロナにいて、ただ散歩しているだけなら1日1万円でなんとかなっても、スペイン国内を移動すると、交通費で文字通り、足が出る。物価の安い地域の旅に慣れていると、欧米はつらい。イギリスや北欧の旅よりは大分楽になるようで、「イギリスと比べると、ここの物価は安いですなあ」と話している日本人旅行者の会話が街角で聞こえた。物価が急激に上がっているとはいえ、東南アジアの物価に慣れていると欧米旅行はつらい。
■モロッコの鉄道駅。停車したときに車窓からホームを見ると、花壇に花が咲き乱れていた。どこの国でも、地方の小さな駅には花壇があり、季節に合わせて植物が植えられている。世界の鉄道員の美徳である。ヒマということもあるのだろうが、職場を美しくしたいという共通の感情と矜恃が世界の鉄道員にはあるように思う。