687話 きょうも散歩の日 2014 第45回

 雑話いろいろ その8


■ここ何年かのことだろうと思うのだが、なぜか台湾とモロッコに人気が集まっているようで、その中心はおそらく20代後半から30代前半くらいの女性ではないかと思う。西ヨーロッパとアメリカやカナダ以外の国に日本人団体旅行客の注目が集まるのは、まずギリシャだろう。ジュディー・オングの「魅せられて」も、池田満寿夫の「エーゲ海の捧ぐ」の映画化も同じ1979年というのはできすぎで、どうやらギリシャ政府観光局が絡んでいるらしい。そのあとトルコがブームになって、オーストラリアとニュージーランドのブームのあとタイやバリ。そして韓国がブームになるのは、2000年代後半くらいからだろうか。そして今は台湾だ。台湾旅行の目的は、食欲と雑貨購入と散歩だろう。モロッコが注目されるきっかけはわからない。モロッコに行きたいと思う人の目的は、アフリカの沙漠での「プチ冒険」と、もしかして自分探しかもしれない。2013年に台湾に行き、2014年にモロッコに行った私は、そういう流行を追っているようでなんだか気恥ずかしい。もちろん、流行を追うという気持ちなんかまったくないのだが。
■上に書いたように、「モロッコが人気」という印象は、テレビ番組や出版物からの想像なのだが、統計資料でモロッコへの日本人入国者数を調べてみたら、「な〜んだ」という結果がわかった。日本人のモロッコ入国者数に関して、モロッコ側と日本側の資料に違いがあるが、まあ、2000年に数万人ということにしておく。2001年に911テロで1万人台に落ちてから、長らく2万人に届くことはなかった。2007年に、在日モロッコ大使館は「2010年に、日本人客を10万人台にしたい」と観光キャンペーンをしたようなのだが、その効果はあまりなく、2万人を超えたのがやっと2010年。日本旅行業協会が発表した「海外旅行者の旅行先トップ50」(受入国統計)というのがある。わかりやすく言えば、「日本人の海外旅行先トップ50」だ。これを見ると、モロッコは50位以内には入っていない。2011年に、ラオスは37000人ほどで44位。統計では、モロッコは50位のナイジェリアよりも日本人入国者が少なかったということになる。もちろん、「多ければ偉い」というわけではないが、マスコミでの印象と旅行者数にはずれがある。
■長距離の移動がつらい。昔の、南回りヨーロッパ航路の時代は、数時間ごとに空港に寄っていたので、「あー、あっ」と背伸びをしつつ、空港散歩ができたのだが、今では十数時間飛びっぱなしが普通になって、心と体へのダメージが激しくなった。閉所恐怖症ではないと思うが、機内に長時間いると閉所に閉じ込められた切迫感はある。理想的には、4時間程度飛んだら、地上でちょっと休みたい。そういう私だから、ニューヨーク・東京とか、パリ・東京といった直行便は、怖くて乗れない。貧乏だから、そういう高い便の航空券は買えないとも言えるが、安くても買いたくない。だから、太平洋路線はハワイ経由でないと、敬遠したい。
■今回の旅では機内に長時間閉じ込められることはわかっているから、何か対策を立てなければいけないと思った。映画を自由にみるシステムになっていない場合は読書か。しかし、本は、機内では読みにくい。窓側の席ならライトの真下になるからいいのだが、通路側だとライトの位置と角度によっては、手元にうまく光が届かなかったりして、イライラする。目が痛くなる。そういうことがわかっているので、今回は目を大事にするということも踏まえて、落語を聞くことにした。好きな志ん朝のDVD全集は、私の腕ではウォークマンに録音できないので、さまざまな落語のCDを10枚買ってきて、ウォークマンにコピーした。
 成田を出て、食事も終わり、そろそろ落語の時間だなとウォークマンをバッグから取り出した。ところが、あれ、はいってない。「おい、どういうわけだ」と自分を叱責しても始まらない。しかたなく、しばらくジャズを聴いていた。帰国後に調べると、CDからパソコンにはダウンロードされている。多分、10枚もコピーしたので、それだけでくたびれて、パソコンからウォークマンに移した気になってしまったらしい。落語が入っていないウォークマンは、旅先でFMラジオとして活用した。
■飛行機内の設備改良でありがたいのは、各席にモニターがあることで、膨大な映画リストから見たい作品を選べることだ。いままでのように、乗客がいっせいに同じ映画を見なければいけないということはないし、見にくい席もない。目も体も元気な時は、英語字幕がついた映画のなかから選ぶのだが、くたくたにくたびれているときは英語を読み続ける集中力に自信がなくなり、日本映画を選ぶ。機内で映画を見るときに注意しなければいけないのは、作品の長さと到着時間の関係だ。ちょっと前にやってしまったのは、韓国映画「コリア」(2012年。日本語タイトルは『ハナ〜奇跡の46日間〜』)を見ているうちに到着時間になってしまい、ラストの15分で映像が切れた。帰国便も同じ航空会社だったので、もう一度見て、今度は最後まで見ることができた。今回の旅では、「イン・ザ・ヒーロー」(2014年。唐沢寿明主演)が、やはりラスト15分で飛行機は到着したために、乗り換えたあと最後の15分を見た。早送りができるのがいい。