692話 電波障害の地、あるいはクラマエ式の話


 ウチの電波の障害の話は、この雑語林467話(2012−12−28)にすでに書いたのだが、その後の話も加えてまた書きたくなった。実は、この私が電波障害の話をすでに書いたことを、今の今まですっきりと忘れていたくらいだから、覚えている人はいないだろう。だから、重複するのは承知の上で、前半はまた同じ構成で話を進めることにする。
 ウチが電波障害のある呪われた地だと初めて気がついたのは、数十年前だろうか。最初に「変だ」と気がついたのは、テレビのNHKの総合と教育の画質が特に悪いということだ。ゴーストと呼ばれる太い線が画面中央にはいるのだ。その頃はあまりテレビを見なかったし、ビデオデッキも持っていなかったので、「まあ、いいか」と思っていたのだが、気のせいか画質がどんどん悪くなってくるような気がして、NHKに連絡をして、電波調査をしてもらった。
 「ええ、たしかに、電波は弱いですね」という調査員が言ったが、だからどうするという対策法は何もなく、引き続き「まあ、いいか」と思ってあきらめた。
ラジオの音質もひどくなってきた。電器屋で相談すると、「ラジオを聞くなら、ステレオよりラジカセの方がちゃんと電波をキャッチできますよ」ということだった。ラジカセからステレオに変わっても、まだFMの時代ではなかったので、AMを聞くぶんには不満はなかったのだが、だんだん音質が悪くなり、雑音が多くなった。AMとFMの室内アンテナは初めから役立たずだった。
 FM局で聞きたい番組もでてきたのだが、どうすることもできず、そのままにしていたある日、屋根の修理をするために、テレビアンテナの取り外しに来た業者との世間話で、ここが電波障害の地でラジオが聞けないという話をした。
 「近所に、ハム(無線)をやっている家があるとか、工場があるということはありませんか?」
 「工場はないですね。ハムは知りませんが、庭に大きなアンテナが立っているという家は知りません」
 「まあ、電波障害の原因はわかりませんが、FM番組を聞くなら、テレビアンテナにつなげばいいので、アンテナを屋根に戻すときに、ついでにやってあげますよ」
 というわけで、我が家のFM問題は簡単に解決した。AMは相変わらず、ラジカセだ。
それから、何年かたち、テレビ放送がデジタル時代に入り、地上波のゴースト問題は解決した。こんなにきれいに見えるのかと感嘆するほど、テレビの画質は良くなった。かつては、地上波と衛星放送の画質の差は歴然としていたのだが、デジタル時代に入って、画質の問題は完全に解決した。しかし、デジタル放送になって、ラジオのアナログ放送とは合致しないということらしく、FMアンテナをテレビアンテナにつなぐことができなくなった。テレビアンテナ設置業者にこの点を聞くと、そもそもFMアンテナをテレビアンテナにつけていたことじたい、まれなことだという。
 「いまどき、FMのアンテナが必要なんて、聞いたことないですよ」
しばらくして、旧知の業者に電気工事をしてもらったときに、アンテナの話を持ち出した。
 「ええ? FMアンテナですか? 私、この商売をもう40年やってますけど、FMアンテナを立てたことは、1回か2回くらいしかないですよ。まあ『やれ』ということなら、やりますが・・・」としぶしぶ言いつつ、ベランダにFMアンテナを立ててもらい、FM問題は解決した。
 ここまでは前回、書いた。その後はこうなった。
 AMはラジカセで聞いていたが、しばらくしてRadikoらじる★らじるといったインターネットラジオのおかげで、ラジオ問題は完全に解決した。
 これによって、我が家の電波問題が完全に過去のものになったと思っていたら、まだ解決しなければいけない大問題が見つかった。雨や雪が降ると、BS放送の画面が乱れ、ひどい雨の場合は、画面がフリーズしてしまうのだ。業者に相談すると、FMアンテナ問題の時と同じ反応だった。
 「ええ? 雨が降ると、画像が乱れるんですか? そんなの聞いたことないですよ。アンテナの位置を高くするとか、方法はないわけじゃありませんが、高い費用をかけても、それで問題が解決するという保証はありませんし・・・・。どうします、やりますか? こっちは商売ですから、依頼されればやりますが、結果を保障できませんよ」
 さて、困った。そういうときのインターネット情報なのだが、「雨が降ると、BS放送が見られなくなるときの対策」などという情報などなく、アンテナ業者のサイトでも、雨天対策アンテナの紹介もない。
 八方ふさがりの日々を過ごしていたある日、インターネットで、我が家とまったく同じ悩みを抱えていた人が、簡単に解決したという記事を読んだ。その情報の書き手は、なんと、あの、天下のクラマエ師こと、蔵前仁一老師だったのだ。いままでなんどもインターネットでこの問題の解決法を探り、ヒントさえ見えなかったというのに、我が家と同じ悩みを抱えていた珍例の主が、ウチとクラマエ邸だったというなんたる偶然。
 クラマエ式雨天時BS放送完璧受信法、通称クラマエ式というのは、こうする。BSアンテナの、電波を受ける皿のようなものを反射鏡という。反射鏡で集めた電波を受ける四角い箱のような部分がコンバーターだ。クラマエ式は、このコンバーターをレジ袋で包み込んで、濡れないようにするというものだ。費用ゼロ、手間1分。これで、完璧に受信できるようになった。クラマエ式を採用して半年以上たつが、画像が乱れたことは一度もない。さすが、天下のクラマエ師である。これから、梅雨、台風、集中豪雨の季節になるので、もし同じ悩みを抱えている方がいれば、クラマエ式を試してみるといいだろう。
 それにしても、なんでウチとクラマエ邸が雨天受信障害になったんだろう? 性格の悪いライターの呪いだろうか。