699話 台湾・餃の国紀行 2015 第4話

 春節の現実


 農歴の春節旧正月)というのは、年によって移動するのだが、だいたい1月末から2月中旬あたりになる。今年は2月19日から始まった。その時期の台湾の気候、とくに台北の気候がよくわからなかった。ネットの情報をいくつも読んだのだが、どうもはっきりとはわからない。実際に旅してみると、はっきり書けない理由がわかった。はっきりしない気候だからだ。台湾旅行第1日目は、成田に向かった朝の服装のまま台北で過ごした。暑さをまったく感じなかった。台北の街を歩く人の服装は、東京とほとんど変わらない。ダウンジャケットを着ていても、けっして暑苦しいということにはない。
 台湾は中央よりちょっと南を北回帰線が走り、それより北は温帯(亜熱帯)、南は熱帯だ。「台湾は九州とほぼ同じ面積」という説明されることが多いが、実際に調べてみれば、九州から大分県を除いたくらいの面積だ。そんな小さな島だが、北と南では気候がだいぶ違う。北部にある台北の冬は、けっこう寒い日もある。「寒い日もある」というところが問題で、ある日の朝のこと、かなり寒いのでジャンパーを着て外出したものの、だんだん暖かくなって、ジャンパーを脱いだ。昼前にはもっと暖かくなって、長袖シャツも脱いで、半袖Tシャツ姿になった。しかし。周りの人は朝のままの姿で、私は「おかしなアメリカ人」のようになった。東京の冬でも、半袖姿で歩いている西洋人を、実際の国籍にかかわらず、私は「おかしなアメリカ人」と呼んでいる。初出は小田実の『なんでも見てやろう』で、冬の安宿で、窓を開けて寝たがるアメリカ人を描いている。裸の腹に雪が積もっているという描写を覚えている。寒い台北の朝も昼過ぎになると、私と同じように半袖姿の人もちらほらと目に入ることもあるが、もしかすると私のような外国人旅行者かもしれない。沖縄の冬でも、半袖シャツで歩いているのはよそ者だとすぐにわかるそうだ。
 暖かいのも遅い午後には終わり、日が落ちると寒風吹き抜けることもある。そうなるとジャンパーを着込んでもまだ寒い。それなのに、熱帯ではしばしばあることだが、寒さに震えるそういう日でも、喫茶店に入ると、あるいはバスに乗ると、冷房が効きすぎて、冷気が来ない場所を探して体を移動させることになる。熱帯では、冷気は大サービスなのだが、熱帯ではない台北の冬も冷房完備なのだ。こういう気候事情だから、「冬の台湾旅行の服装」など、簡単には説明できないことがわかる。「イギリスの夏のようだ」と言っても、わかる人だけわかるだけだ。
 気候のほかで、春節の台湾で気がついたこと。「正月は3日間」だという私の知識は正しいのだが、正月休みは6日目の2月24日まで続いていた。正月前にも休みがあるから、役所も企業も、この時期は1週間以上の長期休暇になる。正月休みがこれほど長いとは思わなかった。企業がどんなに休んでも私には関係ないが、美術館などが休みになるから旅の仕方を考えないといけない。
 もうひとつ、私は春節を本当に理解していなかったことがある。台湾が春節だということは、春節を祝う世界の人々も休暇中だということだ。中国(中華人民共和国)人も韓国人も、東南アジアの華人も、ベトナム人も、春節を祝う人だということで、そういう人たちが台湾にやって来るという想像力が、私にはなかった。「台湾人の春節」しか、考えていなかったのだ。この時期は、日本人を除いた東アジア、東南アジアからの旅行者が多いのだ。
 春節期の外食事情は次回に書く。