706話 台湾・餃の国紀行 2015 第11話

 判読の楽しみ その2
 

 テレビだったかCMのポスターで見たのか覚えていないのだが、なじみのない漢字で気になったのがいくつもある。そのひとつが、「舒」という漢字だ。1度見ただけなら見過ごしてしまうのだが、何度か見ると気になる。気にしていると、この字を見かけるとメモしたくなる。
 トイレットペーパーなどの商品名に多いことがわかった。1軒の薬局の店頭を見ただけで、「信舒矛」、「可麗舒Scott」、「舒潔Kleenex」、「倍舒柔」などがある。
 ハミガキに「舒酸定」
 バス会社、国光客運の宣伝文句 「安全 舒適 便捷」
 そこで、想像を巡らすと、この漢字は「快」に置き換えられるのではないか。「心地よい」というような意味を表しているのではないかと想像した。
 辞書に当たると、日本語としては、「しょ、じょ」と読み、「のびる、ゆるやか」という意味があるそうだが、私はこの字を使ったことはない。中国語の意味も同じようなものらしく、「伸びる、伸ばす、伸びやか」だが、熟語になるとこうなる。
 舒服・・・気分がいい、心地いい。したがって、不舒服は、気分が悪い、気持ちが悪い
 舒担・・・気分がいい、快適
 舒尾四肢・手足を伸ばす
 どうやら、私の勘は当たっていたらしい。快適さを表す語なので多用されているのだろう。
 台北の郊外、平渓線の沿線は、大きな紙風船を飛ばすことで知られている。火を焚いて、気球のように空に上げるもので、この紙袋を中国語では天燈という。人々は天燈に祈願の文字を書いてから、上げる。私はその文字をゆっくり読み取りたいのだが、じろじろ見ると失礼なので、遠慮しながら瞬時に判読する。原文を暗記する時間はないが、だいたいの意味はすぐにわかる。
 おばあちゃんの病気がよくなりますように
 父母ともに元気でいますように
 学業進展
 試験に合格しますように
 三姉妹百歳
 大陸の商売がうまくいきますように
 だらだらと長い文はおもしろくない。やはり四文字熟語でないと。
 しかし、次の願いには笑った。若い女性が書いている天燈の前を通ったときに、いくつも書いてある文句のなかに、その中国語が見えた。
 屁股要變小(お尻を小っちゃくしたい)
 思わず彼女のお尻を見てしまったが、とくに大きいというわけではない。この部分は、別の人が書いたのか。
 さて、この「屁」が、実はその数日前から疑問に思っていた語だった。テレビの字幕に「屁孩」があった。「屁」は「へ、おなら」で、「孩」は「子供」のことだというくらいは私のもわかるが、この熟語がわからない。あまりいい意味ではなさそうなので、「ガキ」か「いたずら小僧」くらいの意味だろうかと想像した。天燈の文字で「屁股」を見たとき、それが「尻」の意味だとすぐにわかったわけではないが、「へを小さく」では意味が成立しないから、「尻」だろうと推察した。
 辞書で調べると、「屁」は単独では、「1、おなら 2、つまらない 3、軽蔑のニュアンス」だが、熟語では次のようになる。
 屁股・・・尻
 スラングでは、
 打屁・・・ダベる
 奥屁・・・吹聴する(なんで奥の屁で、この意味なのだろう)
 放屁・・・「そんなバカな!」
 小屁孩・・いたずらっ子、いたずらするガキ
 で、問題の「屁孩」だが、これはpii-haiという発音で、マレーシアの音楽ユニット「P-HIGH」の漢字名がこれだった。意味は「小屁孩」と同じだろう。どうりで、調べてもすぐにはわからなかったわけだ。
 私はザッピングしながらテレビ画面の文字に注目しているので、どういう番組かわからないで見ていることも多い。ある日、画面に「空中補給」という文字が見え、軍事演習のニュースかなどと思ったのが、なんだか変で、しばらく画面に注目していたら、Air Supply、オーストラリアのバンドだ。外国語の中国語表記は、音訳であれ意訳であれ、どちらも外国人には難しい。
 *NHKの番組で、天燈(ランタン)祭りを取り上げて、ある母子を紹介していた。娘が3歳のときに夫が死に、娘は今18歳、母の店を手伝っている。その娘が天国の父に向けてランタンに書いた文字が見えた。「你放心」。「放心」が日本語の意味とは違うはずだから、調べてみた。その意味は、「父さん、安心してね」だった。