716話 台湾・餃の国紀行 2015 第21話

 不要放香菜


 中国語で、「不要放香菜」(コリアンダーは入れないで)と言うのはたやすいことで、わざわざ勉強しなくても、私の作文力でも言える。「不要香菜」(コリアンダーは、いらない)はぶっきらぼうだが、この方が私のインチキ中国語の発音では通じやすい。
 この言い方は知っているが、口にしたことはたった一度しかない。だから、はっきり覚えている。生春巻きというか肉入りクレープと言えばいいか、潤餅(ルンピン)を作る屋台だった。さまざまな野菜や肉などをクレープで巻く食べ物なのだが、おばさんが香菜(コリアンダー)をわしづかみにして入れようとしたので、とっさに「不要香菜!」と叫んだ。
 タイならいつも「マイサイ・パクチー」(パクチーを入れないで)というのだが、台湾では言わないようにしようと思った。なぜかというと、台湾ではどの程度香菜を入れるのか確かめようと思ったのだ。初めから「不要香菜」と言ってしまうと、台湾でどの程度香菜を入れるのかわからなくなるからだ。
 屋台や食堂の料理に関してだが、スープや汁麺などに香菜を浮かべる頻度はタイよりも少ない。タイならほぼ100%なのだが、台湾では2割か3割くらいだろうか。だたし、サンプル数が少ないので、この割合はいい加減なものだが、重要なことは、必ずしも香菜を浮かべるわけではないということだ。私の印象では、3割に香菜、3割にネギ、4割は何も浮かべない。不幸にして、注文した料理に香菜が浮いていた場合、量が少ないと食べてみることがある。タイと違って、汁が高温なので、香菜がゆであがった感じになり、臭気が弱くなっている。「うん、無理すれば、少量なら食べられるかもしれない」と思い、ちょっと口にした。香菜の量が多いと、せっせと箸でつまみ、テーブルの上に取り出す。
 ある日のこと、うっかりしていて、香菜を取らずに、料理をがっぽりと口に入れてしまったが、不思議にのどと鼻は拒否しない。「おかしい、香菜がこんなにおとなしいはずはない」と思い、汁に浮かんでいる緑の葉と茎をよく見たら、香菜ではないことがわかる。茎の断面が半円で、極細にしたセロリのようで、そういえば匂いもセロリに近い。「そうか、香菜ではなく、芹菜だったか」と初めて気がついた。
 タイでも、パクチーが高値のときは、代用として芹菜を使うことがあるという。芹菜はタイ語ではクンチァーイという。芹菜(キンツァイ)という野菜は名前がややこしい。芹菜は、セロリを指す場合と、香菜にとてもよく似ているハーブもまた芹菜と呼ぶ。これを英語では、チャイニーズ・セロリという。中国語で両者を区別する場合は、セロリを「洋芹菜、西芹』などと呼ぶ。
 ウチの近所のスーパーにはないから気がつかなかったのかもしれないが、このハーブは日本でもすでに登場しているらしい。キンサイとかスープセルリーという名前がついている。
http://www.takii.co.jp/CGI/tsk/shohin/shohin.cgi?breed_seq=00000075&hinmoku_cd=YAC&area_cd=5&daigi_flg=0
 というわけで、「私の印象では、3割に香菜、3割にネギ、4割は何も浮かべない」と書いたが、どうも違うらしいと気がついた。「香菜」のなかに「芹菜」も入っていたわけだ。じつは、「3割にネギ」というのも、詳しく見ていくと、説明が必要だと思うようになった。「ネギ」がどうも単純ではないのだ。市場や、食堂で料理をしているところを見ると、ネギとリーキの両方があることがわかる。リーキというのは英語の名前で、フランス語ならポワロ、日本ではポロネギとも呼ぶが、日本では日常的にはほとんどなじみがない。遠目では「ネギ」なのだが、緑の葉の部分が扁平になっていて、幅の広いニラのようだ。だから、使い方としては、白い部分はネギのように、緑の部分はニラのように使うこともあるという。食堂で食べているスープに浮かんだものが「ネギ」だと思っていたら、葉が扁平で「ああ、リーキか」と思ったことがある。