野菜図鑑
台湾の食文化を知るのは、まず台湾の料理の全貌をなるべく広く知る必要があり、そのためには食材の知識が必須で、『台湾食材図鑑』とか『台湾市場図鑑』といった本を探していたのだが、見つからない。台湾の書店の通販サイトで調べても見つからないということは、出版されていないということらしい。とはいえ、ちょっと使えそうな本を前回見つけたが、すでに何冊も本を買ったあとで、手で持ち帰るには重いので、買わなかった。その本を今回買った。『蔬果飲食圖鑑』(『野菜・果物図鑑』の意味)は、2012年に台湾で出版されて、私はその本を前回の台湾旅行で見たのだが、今回買った本は、その香港版の新版という表示で、2014年に和平圖書有限公司から出版された。定価299元だが、中山路の地下本屋街で79折(21 %引き)で購入した。魚貝編もあるのだが、オールカラーの重い本だから、「まあ、いいか」と買わなかった。いつものことだが、帰国してから「ああ、買っておけばよかった」と、うじうじと後悔している。
この本は食材図鑑ではないから、香料・香辛料などはあまり出ていないから、「最高! 必需書」というほどではないが、中国語名、日本名、英語名、学名、その野菜や果物の説明、おもな料理法が書いてあるので、参考にはなる。もっと詳しい資料なら、『台湾民族植物図鑑』のような本があることは知っているが、台湾の本を書くわけではないので、「今回は、この程度でいいか」と思っている。
市場でゴボウを見つけて、「へえ」と驚いたのだが、この図鑑にも載っている。見出し語は「牛蒡」で、別名に「呉某、呉帽」(日本語の音訳だ)などとあり、紹介している料理法は、「ゴボウと豚胃袋の細切り炒め」と、「ゴボウと鶏胸肉のスープ」の2品がカラー写真とともに紹介している。
上に紹介した本は、ちょっと変わったところがある。まず、帯がついていることだ。本にカバーがついてないという点は、非日本的であり、それは世界の常識だ。本の表にカバーをかけるのは、その本が売れずに出版社に戻ってきたとき、汚れたカバーだけ取り替えて、注文があればまた書店に出荷するという再販制度があるからだ。外国では、本も靴や食料品と同じ扱いだから、書店は売れそうな部数を仕入れ、売れなければ割引し、あまり売れない本はもう仕入れない。台湾では、新刊書の多くは、1年で書店から姿を消すらしい。
だから、カバーがついてないのは当然なのだが、帯がついているのは、やや日本的と言える。「日本独自」ではないが、日本ほど、どの本にも帯がついているわけではない。さて、問題は、その帯の宣伝文句だ。
「絶對受用の蔬果食材百科」(原文のママ)
「受用」は「役に立つ」、「蔬果」は「野菜と果物」の意味だが、問題は「の」だ。いままで店の看板に書いてある宣伝文句に「の」が入っている例は何度も見ている。私の記憶では、1980年代の香港にはすでにあったと思う。おそらく、台湾にもその頃にはあったのだろう。意味は日本語の「の」と同じで、初めはへたくそな手書きだった。中国語の部分は活字のようなちゃんとした文字なのに、「の」だけはヘニャヘニャのヘタクソ手書き文字だった。それが、パソコンで「の」が打てるようになったからか、活字のような」「の」を見るようになったのだが、本の帯で見るようになるほど普及するとは・・・。
1971年の東京都知事選で、現職都知事の美濃部陣営は、自民党と対決する姿勢を「ストップ・ザ・サトウ」と連呼した。サトウは佐藤栄作のことだ。以後、「ストップ・ザ・・・・」あるいは「ストップ the・・・」という表現が増えて、いまもまだやっているらしい。
1973年に放送が始まった「パンチDEデート」も同様で、the やDEを使うと格好いいという発想が、台湾人の「の」だと思う。日本文字をちょっと入れれば、格好いいという発想だ。日本人が、単に飾りとして、西洋語を商品につけたい、つければ価値が上がると思い込んでいるのと同じ発想だ。
それはそうと、この野菜図鑑でもうひとつ気になるのは、表紙デザインが『からだにおいしい野菜の便利帳』(高橋書店、2008)に酷似していることだ。内容はまだチェックしていないが、この便利帳シリーズには魚編もある。
http://www.eslite.com/product.aspx?pgid=1001237202209257と、これ。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%A0%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%97%E3%81%84-%E9%87%8E%E8%8F%9C%E3%81%AE%E4%BE%BF%E5%88%A9%E5%B8%B3-%E4%BE%BF%E5%88%A9%E5%B8%B3%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E6%9D%BF%E6%9C%A8%E5%88%A9%E9%9A%86/dp/4471033816/ref=sr_1_4?s=books&ie=UTF8&qid=1426665831&sr=1-4&keywords=%E9%A3%9F%E6%9D%90%E5%9B%B3%E9%91%91
中山路の地下書店街は、日本の雑誌で何度か特集された「台湾のおしゃれな本屋」ではない。日本の雑誌で紹介された台湾の小さな本屋は、買う気はまったくないが、覗いてみたいだけの本屋の紹介だから、冷やかし客用のガイドだ。書店にとってはいい迷惑だ。地下書店街は、「買いたくなる本が多くある本屋がいい本屋だ」と思う私のような人間にはなかなかに便利な場所だ。台湾の本は、出版されて間もなく姿を消してしまうことが多いので、誠品書店ではもう見つからない本を探したり、通常の新刊書店よりも安く買いたいときには便利だ。