720話 台湾・餃の国紀行 2015 第25話

 雑話いろいろ その2


■さて、あれはどこだったのか。その時にメモを取らなかったので、どこで見たのかわからない。台北の北、金山の街だったような気がするが、まあ、場所はどこでもいい。茹でた鶏やアヒルを売る飯屋は、通りに面したところにまな板を置き、そこで肉をぶつ切りにして売っている。そのまな板が竹なのだ。名著にして珍書、世界のまな板を調べて書いた『まな板』(石村眞一、法政大学出版局、2006)で、竹のまな板を知ったのだが、実物を見るのは初めてだ。太い竹を割いて接着し、集成材のようにしてある。竹の断面が表面になっている円いまな板の写真を、その本で見た。今この文章を書いていて、文章だけでは想像できないだろうと思い、この雑談読者のために画像を探したら、なんとIKEAで売っているのだ。通販でも売っている。時代の変化のすさまじさに驚く。
 http://briisa.com/daikou/products/detail/5207
■淡水の街から渡し船に乗って、対岸の八里に行った。何があるのか知らないが、船があれば乗ってみたいという好奇心だ。川岸は公園になっているが、たいしておもしろそうではない。公園を抜けてバス通りにでて、おもしろい何かを探す散歩を始めたが、町工場が並ぶだけで、殺風景だ。道路に「十三行博物館↑」という表示があって、どういう博物館かわからないが、行ってみようと歩き出した。しばらく歩いたが、博物館は見えてこない。どのくらいの距離があるのかわからないので、バス停で路線図を見たら、だいぶ距離がありそうだ。
 バスが来た。博物館の方に行くことはわかるから、乗った。漢字が読めることが、本当にありがたい。15分ほどバスに乗り、「ここが十三行博物館最寄りのバス停です」という説明を見つけたので、降りる。案内板の指示通り、消防署の脇の道を入って行ったら、いくつもの巨大な壺をさかさまにしたような施設があって、そこが博物館かと思ったが、近づいたら汚水処理場だとわかった。案内板で、博物館はこの隣りの建物だとわかった。その案内板には英語名もついていて、”Archaeology”とあるので、初めて考古学博物館だとわかった。
 私に台湾の教養があれば、「十三行」というだけで、考古学関連だとわかったはずだ。台湾の考古学用語に「十三行文化」という語もあるようで、この地、十三行で発掘された遺跡を展示したのが、この博物館だ。
 新北市立十三行博物館は、小中学生の教育用に作ったような教育館的な構成になっていて、だから中国語にも台湾の考古学にも疎い私にもわかりやすい。展示品の3割くらいが、考古学とは全く関係がないが、「原住民の生活」にあてられていて、バナナの茎が布に変わっていく過程をビデオで見た。
 博物館の屋根に上ると、淡水河の河口が見える。コンテナの積み込み港などが見える。行き当たりばったりの散歩が、日本語のガイドブックにも出ていない場所に出会ってしまった。
■台湾には日系デパートがいくつもあるが、「日系」にもさまざまな事情がある。日本側が出資しているのは、新光三越(45%出資)と大葉高島屋(33.3%出資)だけのようで、太平洋SOGOと廣三SOGOは商標貸与のみ、統一阪急は業務提携のみで、出資していない。
 日本側の出資比率がどうであれ、事業が成功していれば「よかったですね」と言うだけのことなのだが、これが台湾人の好みなのかと疑問に思うこともある。例えば、新光三越の売り場に行くと、商品別ではなく企業別に陳列されている。台所用品でも、鍋売り場があるのではなく、それぞれのメーカーの売り場があるから、あらかじめ買うブランドが決まっている人でないと、買いにくいと、日本人である私には思えるのだが、台湾人は平気なのだろう。売り場が業者別になっているのは、業者が売り場を借りていて、賃料を払っているからではないか。本でも同じことが言えて、書店によっては、出版社別の棚になっていて、なんとも買いにくい店がある。