790話 インドシナ・思いつき散歩  第39回


 ハノイ雑学本


 ウチの本棚にあるベトナム本、特にハノイ関連の本をひと通りチェックして、そのあとはアマゾンなどもチェックして気になる本は注文して読んだ。私の興味範囲の日本語の本はすでにかなり当たったので、今度は参考になりそうな英語の本はないだろうかとインターネットをグールグールと調べていたら、絶好の資料を紹介しているブログがあった。インターネットで調べる限り、ハノイの雑学に関して、これ以上の資料はなさそうだ。そういうすごい本を紹介しているブログとは、何を隠そう、この「アジア雑語林」である。
 私にとっては珍しいことではないのだが、私が知りたい事柄をピンポイントで書いてある文章群は、当然ながら私の文章しかない。だから、私が知りたい事柄をキーワードにして検索すると、この「アジア雑語林」がヒットすることがしばしばある。それはけっして驚くべきことではないのだが、問題は、そういう本を紹介したことをすっかり忘れていたことだ。2013年9月に書いた532話「ハノイ百態百景」と重複する部分もあるが、改めて書いてみよう。その本を、久しぶりに本棚から取り出して、机にのせた。大きな本だから、ベトナム本コーナーではなく、大型本の棚に入れていたから気がつかなかったのだ。
http://d.hatena.ne.jp/maekawa_kenichi/20130919/1379609194
 2013年の夏に、神田神保町の古本屋の店頭ワゴンで外国の本を見つけた。銅像の顔が表紙で、本のデザインが社会主義のように見えた。手に取ってチェックすると、英語の本だ。25センチ×17センチほどの大きな本で、オールカラー350ページほどの本だ。今、調べてみると、日本にあるベトナム書籍の通販書店「レロイ書店」http://www.nsleloi.co.jp/のカタログにこの本が載っていた。すでに売り切れだが、発売時は1万2600円だった。
http://www.nsleloi.co.jp/WeirdAndWowThrough.jpg
“Weird and WOW- HANOI through the eyes of foreigner” Christina Minamizawa , Social Sciences Publishing House、2010 , Hanoi)
 「200円」というシールが貼ってあるから、躊躇せずに買った。今この本をインターネットで調べたら、ある古本屋で65ドルの値段がついていた。神保町の本屋でこういう本を見つけるのは、けっして珍しいことではない。
 日本の姓を持った著者は、どういう人物なのか。ちょっと調べると、日本人の企業駐在員Daisuke Minamizawaと結婚したニュージーランド人のようで、タイやベトナムでの生活経験がある。ハノイ生活4年の経験で見つけ出した「ハノイの不思議」をまとめたのがこの本だ。書名を意訳すれば、『ハノイ百態百景』か『ハノイうろうろ雑記帳』といったところだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=xwyY2_o_ztk
 表紙の銅像の人物は、リー・コン・ウアン(974〜1028)。ベトナムのリー朝(李朝)の創始者ハノイを都に決めたのが1010年なので、2010年が「ハノイ遷都1000年」になる。そこで、1000枚の写真で現在のハノイを表現しようという意図で生まれたのがこの本らしいが、1000枚は軽く超えている。
 最初の方のページは、遷都1000年を記念するポスターの写真が載っていたり、若き日のホー・チ・ミンの写真などがあって、どうも公式筋が作った豪華本のようで、この手の本は重いだけで何の取柄もないことが多いのだが、読み進むとだんだんおもしろくなってくる。食べ物は路上の食事しか出てこない。「座り方いろいろ」というコラムでは、やはり、あの背の低い椅子の話が出てくる。「ハノイの路上で、プラスチックの小さな椅子に座っているのが好きだ。5つ星ホテルの豪華なソファーよりも座り心地がいい」という文章のあとに椅子に座るハノイ人の写真が何枚も載っている。どういうテーマであれ、詳しい説明はあまりなく写真だけだから物足りないのだが、2010年までの数年間のハノイの映像記録として見ると、なかなかに興味深い。もうシクロは観光専用になっている。韓国製の軽自動車タクシーはまだ走っていない。バスもオンボロなものが多い。
 ハノイの公衆便所もコラムで扱っているのだが、その話は別の資料を使い、次回で詳しく触れよう。