797話 インドシナ・思いつき散歩  第46回


 ベトナム雑事集 前編

■「ベトナムコーヒー」という文字を見る機会が増えたが、ベトナムのコーヒーをうまいと思っている日本人はどれだけいるだろうかと疑問に思う。コーヒー豆そのものの味はともかく、焙煎するときに砂糖やバターやチョコレートなどを加えてしまうので、安物のコーヒー飲料のような味になる。この点では、タイのコーヒーにそっくりだ。加糖練乳(sweetened condensed milk) を入れたアイスコーヒーなら、氷が溶けるのを待って飲めば、まあなんとか飲めるが、熱いコーヒーは私には「頂けない」。
コーヒーの味はともかく、ベトナムのコーヒーといえば、旅行者の誰もが気にかかるのが、コーヒーカップの上にのせて使うアルミのフィルターだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%BC
このフィルターに関する考察は、かなり以前に書いているのだが、ベトナムのフィルター事情が変わってきているように思う。http://d.hatena.ne.jp/maekawa_kenichi/20120102/1325484462
フランスにエスプレッソマシーンが登場したことで、アルミフィルターが消えていったように、ベトナムでもしだいにこのフィルターが消えて、大きな紙フィルターを使ったり、エスプレッソマシーンを使うようになってきたので、テーブルにフィルターが登場する機会は昔よりはだいぶ減ったのではないかと思う。アルミフィルターを使っている店は「昔ながらの古臭い店」のイメージがあって、新しい内装の店は、スターバックスのような店だ。
■ホテルの部屋に新しいテレビがあり、映りも良かったのだが、おもしろい番組にはなかなか出合えなかった。経費の安い討論番組やニュース解説や政府広報番組が多く、コマーシャルのチェックという楽しみもなかった。しいて言えば、農産物収穫のニュースや、町工場の製作シーンなどがおもしろかった。ニュースでは、バイクの飲酒運転禁止キャンペーンが印象に残った。電車がない町では、酒を飲んでいる人は、酔ったままバイクで帰宅するのは明らかで、事故も多いらしい。
■通販番組はここでも花盛りだが、出演者の口と音が合っていないことに気がついた。おそらく中国の通販番組を吹き替えで放送し、字幕で値段などを紹介している。調理器具セットをよく見た。煮物や蒸し物ができる炊飯器があった。卓上用IHクッキングヒーターのおまけが魚焼き用網だというのがいぶかしく、画面に注目した。番組の製品紹介者は、金網をヒーターの上にのせ、その上に鶏肉を置いた。しばらくすると、ジリジリと肉に焦げ目がついた。なんだ、ただの「電熱」か。IHは調理具を選ぶから、単純な電気ヒーターの方が使いやすいだろう。このヒーターなら、「垂れた汁は拭けば消える」というのが売りらしい。使い道は卓上焼き鳥よりも、鍋物だろう。ハノイの冬は寒いので、これからのシーズンにぴったりだ。
■午前中の散歩を終えた日曜日の昼だったか、ホテルに戻りテレビをつけると歌番組をやっていた。若いがこぶしがきいた節回しの歌手の歌を聴いていた。その次に登場した女性歌手にはこぶしはなく、私の好みではないポップス歌手だ。髪を短く刈り男物のスーツを着て、おしゃれに歌うという新曲のプロモーションらしい。動画に挿入される写真は、髪の長いかわいい歌手がピアノに向かって歌っているシーンで、よく見ると同じ人物らしい。雑誌や新聞の記事が次々とでてくる。「ca si tomboy・・・・」という文字が見えた。ca siは、漢字で書けば「歌士」であり、歌手のことだ。tomboyというのは、「おてんば娘」というのが辞書の意味だろうが、タイでは女性同性愛者を意味する語として使っている。どうやら、ベトナムでも同じらしい。番組は、人気女性歌手がカミングアウトしたという特集らしい。いろいろ規則に縛られているベトナムだが、こういう放送は許される。この歌手の名はメモしたので、ここで紹介できる。歌手の名は、Vu Cat Tuong。
https://www.youtube.com/watch?v=2YM4j-oP_qQ