ベトナム雑事集 後編
■ハノイにコンビニは、「ないわけじゃない」という程度の店舗数で、水や菓子を買うなら昔ながらの雑貨屋が圧倒的に優位だ。マクドナルドは、サイゴンにできたばかりで、ハノイにはまだない。スターバックスやKFCやロッテリアはある。ある日、ファーストフード店チェックのために、ロッテリアに入ってみた。薄いコーヒーがあればうれしいと思っていたのだが、そもそも熱いコーヒーがない。アイスコーヒーだけで、「Black , With Milk」の2種類から選ぶしかない。2万ドン(約120円)。ミルク入りを注文したのだが、砂糖も山ほど入っていて、顔が曲がりそうだ。大甘のコーヒーはベトナムコーヒーそのもので、ベトナムでは正しいコーヒーである。スペインのマクドナルドのコーヒーは、通常はエスプレッソで、それが現地化であるように、ベトナムのロッテリアのコーヒーがベトナム式であることは当然なのだが、問題は私の好みに合わないことだ。
■帰国してからのことだが、神田神保町の中古DVD屋で商品チェックをしていたら、「ハノイの花嫁」(2005)という韓国作品を見つけた。映画かと思ったのだが、テレビドラマだとわかった。インターネットで調べてみれば、意外にも情報が多い。その一例が、これ。
http://heavysweetheaven.web.fc2.com/Hanoi-Bride.html
顔なじみの俳優が多いが、作品としてはたいしたことはない。しかし、単なるラブストーリーではなく、今も何かと韓国で問題になるベトナム人の嫁と韓国人の夫を取り上げている点では話題にしていい作品だ。農村の嫁不足の解決を、ベトナム女性に求めているという事実がある。ベトナム戦争を取り上げた韓国映画は何作かあって、たぶんそのほとんどを見ているが、ベトナム戦争以後のベトナムを取り上げた韓国ドラマはこれ以外見たことがない。韓国のベトナム人を取り上げた作品は、「見知らぬ国で」(2007)などがあるが、ベトナムでロケした韓国作品はほかにあるのかどうか、私は知らない。
韓国のテレビドラマとしては平均点なのだろうが、「ベトナム観光映画」という視点で見ると、出来は良くない。ハノイよりもハロン湾の方が重視されている。2005年のハノイが封じ込まれていれば、タイムマシンで戻った感激を味わえるかと、ちょっと期待したのだが、バスがオンボロだったという以外、「この10年の月日」を感じさせるものはなかった。それはそれとして、この程度のテレビドラマが日本版として発売されている理由がわからない。時期的にいえば、「冬のソナタ」直後なので、韓国ドラマなら何でも売れると判断したのだろうか。
■ベトナム北部のラオカイと国境を渡った中国側の河口に関して、『国境と少数民族』(落合雪野編、めこん、2014)に、ボナンノ・ジャンルカ氏の論文「国境の人びと」がある。興味のある方は、どうぞ。
■ベトナム最後の日は何をしようかと考えつつ散歩をしていたら、水上人形劇場の前を通りかかり、試しに空席状況を調べたら、夕方の席が簡単に取れたので、入場券を買う。10万ドンは、600円弱。団体観光客でも飽きないようにうまく工夫された50分のショーで、音楽が生演奏なのがいい。ふとした気まぐれでこの劇場に入ったのだが、コストパフォーマンスは高い。10万ドンは、外国人観光客には安い。
■ベトナム最後の夜の食事。高級レストランにひとりで行ってもたいした品数の料理を食べられるわけではないので、いつものコム・ビンザン(大衆食堂)に行った。英語をしゃべる店員もいるから、大衆食堂としてはやや高めの店だ。ここで、値段など気にせずに、うまそうな料理を少量ずつ何品も注文して、たらふく食べたら13万ドンを超えた。日本円にして700円ほどだ。おかずの量は、いつもの5割増しくらいだから、ご飯の量を減らした。まだ食べていないベトナム料理はいくらでもあるが、どうせ全部は食べられないのだから、心残りはない。いや、あるな。バゲット(フランスパン)だ。ベトナムで、うまいバゲットを食べたかった。