817話インドシナ・思いつき散歩  第66回


 最終回 そろそろ別の話を始めよう

 この旅3度目のタイ入国後、東北部をしばらく旅して、バンコクに戻った。旅行のメモは習慣にしているから、いままでと同じように、東北部でもたっぷり書きとめている。だから、あと10回分でも20回分でも旅行記を書き続けることはできるのだが、あまり書く気がしない。もう何度も旅している場所なので、新鮮味がないのだ。すでに知っていることの再確認をする作業のようになってしまうから、書いていても驚きや喜びが少ないのだ。それに、旅行物語以外の文章も書きたくなったので、この「インドシナ・思いつき散歩」は、今回で最終回とする。
 唐突に感じるかもしれないが、気まぐれに決めたわけでもない。この旅行記は、10回分以上まとめて書き、逐次手を入れて発表していたのだが、ラオス編に入ってから、その先の文章がなかなか書けなかった。書けないまま時間が過ぎ去った。そのうちに書いてもおもしろそうじゃないと思えて来たので、「そろそろ、やめようか」と決めたのだ。印刷物ではないので、読者がどう感じようが、私がおもしろいと思えば書くが、私がおもしろいと思えないなら書き続けていく意味がない。世に多くあるネット旅行記のように、写真で構成するだけなら続けるのは簡単だろう。しかし、幸か不幸か、このブログは写真を載せられない。文章で勝負するしかないとなると、もうこれ以上続ける気力がおきない
 ひとこと結果報告をしておくと、ラオスとタイで探したバゲット(フランスパン)は大失敗だった。サイゴンで再挑戦するか、日本のバゲットで我慢するか、只今考慮中だ。
 「カンボジアバゲットは・・・」と、岡田知子さん(東京外国語大学)とパンの話をした。うん、カンボジアにもしばらく行っていないなあ。岡田さんによれば、カンボジアの小鍋目玉焼きも、タイと同じように完全に火を通した固い目玉焼きになっているらしい。サルモネラ菌を警戒する運動が盛んになったのだろうか。そもそもは、「うまいバゲットを食べる旅」を仮の目的にしていたのだが、大外れの結果に終わったというわけだ。「ベトナム朝飯」にも出会えなかったのが、今回の旅でもっとも残念なことだった。
 思えば、2015年11月28日にこの旅行記の第1回を発表してから、4か月たつ。それほど前のことでもないのに、なんだか気の遠くなるような長い道を歩いて来たような気分だ。ハノイはもう、遥か彼方だ。帰国してすぐに旅行記を書こうと思ったものの、ベトナムに関する基礎知識もなければ、旅行体験も乏しい。すでに買ってあるベトナム関連書籍をふたたびチェックしつつ、アマゾンで次々と本を買い込み、印刷物とネット情報で旅の体験を補強していった。ベトナム関連のテレビ番組はできる限りチェックして録画して見たが、佳作は見つからなかった。頭のなかがベトナム話で満たされていく日々は、じつに充実したものだった。旅行中に抱いた疑問を帰国後に調査して、考えて、また調べて文章にまとめ上げていくのは、なんとも楽しい時間だった。今後は、旅の話は形を変えて紹介することがあるかもしれないので、どこかで旅と再会することがあるだろう。
 約13万字、ほぼ単行本1冊分の、66回の旅物語を読んでいただいた方々、といってもおそらくその数はわずかだろうが、ありがとうございます。FBはやっていないので、どういう方が読み、どういうコメントがあったのかはわかりませんが、とにかくありがとうございます。さて、次はどういう旅の話になるだろうか。確実に言えることは、サイバーツーリストにはならない、食い物がまずい国には行く気がしない、寒い国には行かない、物価の高い国には行けない、治安の悪い国には行きたくない、外国人を歓迎しない国には行ってやらないということだ。私は冒険家ではない。ジャーナリストでもない。スポンサーがついた「作家先生」でもない。読者が感動するような旅の話を創作できる腕もない。極限の旅も、求道の旅もしない。私は、今も昔もただの、散歩と本と雑学が好きな旅行者にすぎない。
 このアジア雑語林、次回からは通常版に戻る。隔日更新もしない。たぶん、しばらくはベトナムの本は読まないから、私の読書生活も通常に戻った。次の原稿はまだ書いていないので、いつ発表するか自分でもわからない。