877話 イベリア紀行 2016・秋 第2回

 アムステルダムは、寒いだろうなあ
 

 私の好奇心は、希薄かつ脆弱しかも狭小だとは思いたくないのだが、「どこに行こうかなあ・・・」と考えると、いつも同じ街しか頭に浮かばない。行きたい街はそれほど多くないのだ。訪問国の数を増やしたいなどという欲望は、まったくないから、「まだ行ったことがない」というだけの理由で行く気にはならない。北欧にも中央アジアにも行ったことがないが、だからといって「ぜひ、行ってみたい」という好奇心は湧いてこない。
 いつものように、おもしろそうな土地を頭に描いていたら、「アムステルダムに行こうか」と思った。好きな街だ。41年ぶりだ。徒歩と路面電車でほとんどの場所に移動可能という小ささがいい。アムステルダムにひと月居るほどの好奇心はないが、オランダ巡りなら充分遊べる。ロッテルダムにもまた行きたい。ハーレムの記憶はほとんどない。ここのところ、シーボルト一族のことを調べていたので、ライデンのシーボルト関連の場所に行きたい。国立民族博物館にも行きたい。
 しかし、11月にオランダに行くとなると、寒さが心配だ。私は寒い場所には行かない。同じ時期の東京よりも寒い場所には行かない。
1975年の11月のほぼひと月を、アムステルダムで過ごしたことがある。月末近くになって、ロンドンに行くために、街道脇に立って親指を車に向けたその日、私は雪の中にいた。ラブストーリーに似合うようなちらほらの雪ではなく、立っていると雪だるまになりそうな雪だった。
 インドネシアのソロの、安宿で出会ったオランダ人の大学生たちとの雑談のなかで、そんな思い出話をしたことがある。
 ぼくはアムステルダム生まれだけど、11月に雪が降ったことはないよ」
 大学生のひとりが言った。
 「いや、降ったんだよ、結構な量でね」
 「いったい、いつのこと?」
 「1975年11月末」
 大学生は苦笑いしつつ、「生まれてないよ」といった。そう、彼らが生まれるずっと前の話だ。
 こうやって、旅行先を考えていて、思い出と遊び、資料を読み飛ばし、テレビの旅番組を録画してと、好奇心を刺激している日々はなかなかに楽しいものだ。
旅行先を考えていて、雪の日のヒッチハイクを思い出し、アムステルダム案は即座に否決した。ニューヨーク案やボストン案も、気候が原因で否決した。ちょっと頭に浮かんだアイルランド案も、気候の点で否決された。サンフランシスコ案は気候の点ではまったく問題ないが、この街とその周辺でひと月ほど過ごすほどの魅力はない。ロサンゼルス案は気候の問題はないが、自動車がないと動けない街はいやだ。

 まったく偶然に、この文章をアップした日に、関東南部でも雪。11月の初雪です。