887話 イベリア紀行 2016・秋 第12回


 三輪自動車


 自転車に座席付きリアカーをつけたような三輪自転車を、タイではサムロー(三輪の意)、ベトナムではシクロ、インドネシアではべチャといい、地方都市ではまだタクシーとして使われている。起源がよくわからないのだが、1930年代なかばにアジア各地で生まれている。そのアジアではすでに時代遅れで、都市交通の妨げになるという理由で、大都市での営業は禁止されることが多くなった。一方、アフリカや中南米では、安い新たな交通手段として広まりつつある。
 欧米では、まず観光用の乗り物として登場した。1970年代あたりから、ちらほらと姿を見せたらしい。私は1980年のサンフランシスコで、観光客を乗せて営業している三輪車を見ている。車体は、タイからの輸入だと思われる。
1990年代に入ったころからだと思うが、観光客用の変わった乗り物としてではなく。地球環境を考えた乗り物としてヨーロッパの街に登場するようになった。例えば、ドイツで登場したVELOTAXIだ。   https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AD%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC
 ここまでの知識はあった。一方、エンジンを積んだ三輪自動車の方は、インドや中国のほかいくつもの国で生産していて、イタリアのピアッジオ(Piaggio)の三輪トラックは2012年のリスボンで見かけている。タクシーに使われる三輪自動車を大規模生産をしているのは、インドとタイだろう。タイでは三輪電気自動車を生産しているのは知っている。そこまでが私の知識だったのだが、リスボンに来て驚いた。三輪自動車tuktukというタイの呼び名で観光客相手に営業しているのだ。姿はタイのトゥクトゥクだ。ということは、つまり大本はダイハツ・ミゼットだということだ。
 タイからの輸入だろうと思いつつも、ちょっと気になって調べてみると、どうやらオランダからの輸入らしい。その名もTuktuk Factoryという会社の製品のようだ。この会社は2006年に、バックパッカーがタイからトゥクトゥクを輸入する会社として設立し、その後電気トゥクトゥクの製造販売を行なうようになったようだ。
 https://tuktukfactory.com/
 リスボントゥクトゥクが登場したのがいつかわからないが、たぶん2010年代あたりだろう。リスボンで従来のタクシーとどういう軋轢があったかといった話は、次の新聞記事に詳しい。2015年秋の時点で、リスボンに300台の三輪自動車があったようだ。
 http://www.nytimes.com/2015/10/27/world/europe/tuk-tuks-lisbon-portugal.html?_r=2
 私がリスボンを訪れた2016年秋の時点で、多くはトゥクトゥク型の電動三輪車だったが、一部にはピアッジオのエンジン車が走っていた。上のニューヨーク・タイムズの記事によれば、2017年までには全車電動にせよという規制ができているようだ。

 ストレッチ・リムジン(?)もあれば、カブリオレもある。上2台はミゼット型、下はピアッジオモデルだと思う。