900話 イベリア紀行 2016・秋 第25回

 Los Lunes al Sol


 [書きためたこの紀行コラムは、すでに12万字、原稿用紙にして300枚分を超えてしまった。今までのように、隔日で更新していくと、4月になってもまだ連載が続いていそうなので、更新回数をもう少し増やすことにする。それにしても、NHKBSでは、コウケンテツが、関口知宏が、小川直也ポルトガルに行き、リスボンのタクシーを追う番組もあり、世間はちょっとポルトガルブームなのだろうか]


 スペイン映画”Los Lunes al Sol”について、ちょっと書いておきたくなった。この映画は、2002年にマドリッドでたまたま見た映画の1本だ。スペインの映画を見たいと思って探して、数本見た。映画のタイトルをメモするのを忘れてしまったが、少しでも内容を覚えているのは2本だけだ。
 1本は、私にとっては変な映画だった。森の中の、雪深い鉄道駅のシーンから映画が始まるのだ。スペインと言えば、フラメンコが聞こえる荒野の景色かマドリッドなどの都市が舞台だろうと思っていたのだが、まったく違った。スペインにも雪深い場所があることを初めて知った。その映画は、私の想像にすぎないが、「文芸大作」のような作品で、だから退屈だった。タイトルは、いまもわからない。
 もう1本の映画は、インターネットの力を借りて、やっと探しだした。”Los Lunes al Sol”が原題で、日本では「月曜日にひなたぼっこ」というタイトルがついていると知った。じつにおもしろかった。字幕なしで見たのだが、それでも映画と役者の迫力は充分に伝わった。だから、もっとこの映画について知りたかったのだが、公開当時インターネットにも情報は少なかった。あとになって、偶然とはいえ、名作に出会っていたことを知った。この映画は、2003年のゴヤ賞(スペインの映画賞)では、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞を受賞している。主演男優賞を受賞したのが、ハビエル・バルデムJavier Bardemである。
 2000年のアメリカ映画「夜になるまえに」(ジュリアン・シュナーベル監督)で、アカデミー賞・主演男優賞にノミネートされたそうだが、その当時、私はその俳優をまったく知らなかった。しかし、2002年の「月曜日にひなたぼっこ」以降、この俳優とは何度も出会うことになった。以下、彼が出演したおもなハリウッド作品をあげておく。どれも有名な映画だ。「月曜日にひなたぼっこ」とはまるで違う印象で、ハリウッド映画の顔よりも、こちらのスペイン映画の顔のほうが、凄味があって好きだ。
2004年 「海を飛ぶ夢」(ヨーロッパ映画賞ゴヤ賞、ベネチア映画祭男優賞)
2007年 「ノーカントリー」(アカデミー助演男優賞ほか)
2008年 「それでも恋するバルセロナ」(監督:ウディ・アレン。ハビエルは画家の役。元妻役のペネロペ・クルスがアカデミー助演女優賞
2010年 「食べて、祈って、恋をして」(バリ島で恋人になる男の役)
2012年 「007 スカイフォール」(英アカデミー賞ノミネート)
2015年 「ザ・ガンマン」(主演は、ショーン・ペン
2016年 「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」
 こうした年表を見ると、「スペインの俳優」から「ハリウッド俳優」になる時期に、私はマドリッドで彼の映画を見たことになる。
 私が知っていた唯一のスペイン人男優は、私が知っていた唯一のスペイン人女優ペネロペ・クルスと、2010年に結婚していた。つまり、私が知っているたったふたりのスペイン人俳優は共にアカデミー助演賞受賞者であり、じつは夫婦だったというわけだ。