905話 イベリア紀行 2016・秋 第30回

 レオン

 10世紀から12世紀まであったレオン王国の首都が、ここレオン。サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の途中にあるため、交通の要衝として栄えた。そこまでは知っていたが、調べてみれば、観光のほか、やはり商工業地域になっているらしい。駅やバスターミナルがある西岸と川を渡った東岸では、まったく違う風景が広がっている理由がわかった。川によって、商工業地帯と観光地が分かれているのだ。
 バスターミナルから旧市街まで、歩いて10分程度だった。旧市街は、こじんまりとしたおしゃれな街だ。どの窓にも赤い花が飾ってあり、美しいが作為的という気もややする。別の表現をすれば、女性向け旅行雑誌の写真にぴったりの風景だともいえる。
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このコントラストの強さは、私の露出補正の腕ではどうにもならない。だから、「光と影のスペイン」と呼ばれるのである。

 レオンで、「これは見ておこうか」と思っていたのは、カサ・デ・ロス・ボティーネスだ。あのガウディーが設計した建物で、バルセロナで見たガウディーの作品と比べると、ずっとおとなしい。唯一異彩を放っているのが、入口上の彫刻だ。どういう意味の彫刻かわからないので、帰国してから調べた。
 キリスト教の伝説では有名な「聖ゲオルギオスのドラゴン退治物語」が描かれている。ゲオルギオスは古代ギリシャ語の読み方で、英語ならジョージで、その光景を描いた絵は英語では、“Saint Gorge slays Dragon”といったタイトルがついている。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jost_Haller_-_Saint_George_slaying_the_dragon,_Unterlinden_Museum,_Colmar.jpg
 西洋人にとってのドラゴンは、この彫刻ではワニにしか見えない。ガウディーのドラゴンは、バルセロナのグエル別邸の門につけた鉄のドラゴンは翼竜のような迫力があったが、レオンのドラゴンは、ワニだ。これは、上にリンクを張った絵にあるように、あまた描かれた絵のせいだろう。
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 この建物やカテドラル、サン・イシドロ教会周辺を歩いた。カテドラルを左手に見た風景は、下り坂の向こうに遠くの森が見えて、美しい。旧市街も美しい。この街に立ち寄って良かったと思ったと同時に、「2時間観光」はいい選択だったこともわかった。明日の午後にバスが出るまでの26時間を過ごすには、少々退屈な街だとも思った。ただ、それはこの街をよく知らないからで、観光地ではない地区を歩けば、もしかしておもしろいことに出会うかもしれない。当たり前のことだが、旅人は見た場所しか見ていないのだ。
昼飯は、食堂に行った。生ハムはひと休みして、され何を食べようか考えて、スパゲティーにした。スペインでも、スパゲティーやマカロニはもはや外国料理ではない。カルボナーラを注文したのだが、なかなか料理を持ってこない。店内を見渡せば、客など数人いるだけだが、パスタを茹でる時間を考えたら、先客がいなくても20分以上かかるのは当たり前か。いつもなら、時間がかかっても気にしないのだが、きょうはバスの発車時刻が決まっているから、あまりのんびりできない。
 えらく気取った皿で、カルボナーラが来た。所要30分か。おまけの小皿は、パエジャというより、トマトソースの炊き込みご飯という感じだ。スパゲティーの味は、日本のイタリア料理店で食べるのとほぼ同じ。こういう皿を使っても、飾り付け・盛り付けを考えないというあたりを不満に感じる日本人に、私はいつの間にかなっている。料理の上に、色が欲しい。昔は料理の盛り付けなどまったく気にならなかったのに、これは年のせいか。
トマト飯もパスタも、おいしく食べたが、だからと言って、特筆すべきことはない。ただ、おまけの小皿はうれしい。オリーブも、「ください」と言えば、たぶんタダでくれるだろう。


 さて、そろそろバスターミナルに行けなければならない時刻だ。