922話 イベリア紀行 2016・秋 第47回

 川を見に行く その3


 マドリッドの市街地のはずれから、カサ・デ・カンポにロープウエイが運行しているのだが、運航期間は夏季のほかは土日祝日のみということらしい。空からマドリッドを見るいい機会だとは思ったが、土日に出直す気にもなれず、公園の散歩を続けたのだが、ここは変な場所である。
 鉄柵があり、門がある。食欲を掻き立てる香りが漂っている。建物は校舎か官舎のようで、食堂ではないらしい。その先は、堂々たるレストランだ。館と呼んでもいいくらいの石造りの建物だ。その向こうにも、右にも、レストランらしき建物が建っている。レストランのテーマパークか? その想像があながち間違いでもなさそうだと思えるのは、Paseo Gastromia(美食通り)の表示があって、案内板に”Pabellon”という文字と矢印→がある。これは日本でいう、パビリオンだろう。あとで辞書で確かめたら、「パビリオン、展示場」の意味で間違いない。「食の万博」のようなもののやった名残りなのかと思ったが、調べきれなかった。
 保育園のような建物がぽつんとある。そのまわりは草地だ。バス停はない。広い自動車道は近くにあるが、この周りの景色は公園ではなく、市郊外の荒れ地に近いが、古い石の建造物もあって、遺跡公園のようでもあり、正体がわからない。もっと先に行けば、遊園地や動物園もあるそうだが、そこまで行く気はない。
 公園のベンチに腰掛けて、ぽかーんと青い空を見る。公園には車いすの老婆と、世話をするアジア人がいる。介護をしているのは、おそらくフィリピン人だろう。日向ぼっこにはいい気候で、部屋でじっとしているよりはここにいる方がずっといい。
 帰国後、この公園について多少調べてみた。腑に落ちないことの多い公園なので、探ってみたかったのだ。
 この森は、もともとは貴族が所有していた土地だが、国王が買い上げて狩猟場にした。1931年に国王が退位して共和制になったので、この土地はマドリッド市に譲渡された。市民戦争当時は戦場だった。今は家族で楽しめる場所、スポーツが楽しめる場所だということはわかる。例えば、こんな風に。
http://flickriver.com/photos/druidabruxux/sets/72157622654529680/
 しかし、雰囲気が何か変なのだ。パビリオンがあったらしいという看板が気になっていて、何か資料はないかといろいろ探してみたが、「食の博覧会」らしき情報はまったく見つからなかった。すっきりしないまま引き続き調べていたら、とんでもない情報が出てきた。ホントかよー!? おいおい、という情報だ。
 ジョギングをする人がいて、老人が車椅子で日向ぼっこをして、遊園地や動物園もある広大な公園は、実は売春の中心地なのだという。にわかに信じがたいのだが、より深い資料を探してみた。すると、こういう資料が次々に出てきた。
http://www.elmundo.es/economia/2014/09/25/5423e024ca4741f4278b4571.html
http://www.elconfidencial.com/espana/2015-02-22/la-carcel-del-vudu-en-el-poligono-del-sexo_715786/
http://www.elmundo.es/elmundo/2007/07/06/ciudadanom/1183707151.html

 英語の資料でも。
http://forum.slowtwitch.com/Slowtwitch_Forums_C1/Triathlon_Forum_F1/Madrid_Coachs_Journal_-_Sepcial_SEX_edition...and,_yes,_there_are_pics_P1806888/
 警察の手入れが進んだのか、あるいはたまたま営業中の人たちに出会わなかっただけなのかもしれないが、まさか、ここが? という気がしたが、そういえば、フランスでも森が売春の中心地などという話を聞いたこともあるので、これがヨーロッパということか。