934話 イベリア紀行 2016・秋 第59回

 パンが、ちょっとね


 マドリッドのそのパン屋では、ハムかソーセージのサンドイッチとコーヒーの朝飯が多かった。朝の飲み物は、カフェ・アメリカーノアメリカン・コーヒー)を2杯。朝食に甘いパンがあまり好きではないので、サンドイッチにした。パン屋だから、クロワッサンだの各種さまざまなパンがあるのだが、私好みのパンは例えうまそうでも、大きすぎて1回では食べきれない。日本のパン屋と比べると、いわゆる惣菜パンはあまりない。
 小さなバゲット(フランスパン)風のパンのサンドイッチが、大きさではベストだが、味の点では不満だった。パサパサなのだ。私の好みには合わないが、スペインのどこに行ってもこれしかないのだからしょうがない。通常、このパンを「バゲット」と紹介しているが、パンを切ってもなかに空洞はなく、日本のうまくない「バゲットもどき」をさらにパサパサにした感じだ。
 「パンがまずい」というのが、1975 年にスペインに初めて来たときの印象で、その後何度かスペインに来たがいつも同じ感想で、残念ながら今回も変わらなかった。私のこの感想に賛同者する日本人は少なくないようだ。『スペイングルメ紀行 サフランの花香る大地ラ・マンチャ』(太田尚樹、中公文庫、1996年)に、「パンがおいしくないのは伝統?」という章がある。著者は、スペインは「料理はうまいのに、なぜパンがまずいのだ」と書いているが、スペイン人はそういうパンが大好きなのだからしょうがない。
 一応説明しておくと、日本人好みのパンとは、「ヤマザキ ダブルソフト」に代表されるような柔らかく甘い食パンなのだが、私の好みは全粒粉、ライムギやバゲットなどのハードタイプのパンである。だから、スペインのパンが、日本の食パンやフニャフニャのバゲット風パンのようではないから不満というわけではない。スペインのパンを弁護しておくと、私が食べたパンはほんの数種類だけで、パン屋やスーパーマーケットで見ていても、食べていないパンはいくらでもある。だから、たまたま私好みのパンに出会っていないだけかもしれない。
 日本人が考える食パンのサンドイッチは、マイナーな存在だが、スペインにもある。スーパーで売っているサンドイッチは、シャキシャキのレタスが入っているものもあり、外見も味も日本のコンビニのサンドイッチとほとんど変わらない。また、街中に、この手のサンドイッチ専門店もあり、外国人だらけというわけでもないので、一定の愛好者はいるのかもしれない。
 ある日の夕方、雨宿りを兼ねて入った店は、サンドイッチ専門店で、いわゆる食パンのサンドイッチも十数種類ある。1個1.50ユーロだ。パンが薄いから2個では物足りないが、3個だとちょっと多いかと悩み、かなり空腹だったから「よし、3個!」と決めて注文すると、「4個なら、ビールもついてセット料金6.90ユーロですよ」という店員のセールストークに乗せられて、4個選んでしまい、350ccくらいのビールもつけて、おまけに4個1ユーロのコロッケまで注文してしまった。セットメニューにしないで、サンドイッチ3個にしておけばよかったと反省しつつの夕食、合計930円。翌日に残せないので、無理して全部食べて苦しんだ。通常はアルコールを口にしないが、スペインでは夕食に限り、ときどきビールを飲んだ。
 サンドイッチは、日本で売っているサンドイッチとほぼ同じだった。現物を指差して注文したので、生ハムを除いて、何のサンドイッチかわからないで食べたのだが、レシートを取っておいたおかげで、あとから正体がわかった。生ハムのほか、クルミ入りチーズ、キノコとアンチョビ、ブルーチーズとルッコラの4種だった。
 コロッケは、粉末のマッシュポテトを使った冷凍食品だろうと思ったが、クリームコロッケだった。もちろん、ソースはつかない。この手のコロッケは好きではないので、評価はしない。