942話 イベリア紀行 2016・秋 第67回

 トイレ


 トイレを意味するスペイン語はいくらでもあるが、住宅用と公共用で言葉が違う。日本語の場合、家庭でも職場でも、「トイレ」だが、スペイン語では、家庭用をbano(記号省略、バニョと発音する)という。スペインの植民地だったフィリピンでも、banyoとして使われている。英語のbathと同じ系統の語だから、本来の意味は浴室である。空港や駅やショッピングセンターなどにあるトイレは、私の体験ではservicioをもっとも多く見かけた。英語の「サービス」の意味だ。清潔を意味するaseoという表示もある。日本でも他の国でも、「便所」のように人前であまり口にしたくない語は、「トイレ」のように外国語や別の単語で表現することが多い。
 スペインでは、トイレの男女を表すもっともふつうの表示は、女性用はsenoras(セニューラス)やdamas(どちらも「淑女」の複数形)、男性用ではcaballerosカバジェーロスなどがある。このcaballerosという語を見たとき、イタリアのオペラ「Caballeria Rusticana」を連想した。「田舎の騎士道」という意味で、騎士を意味するcaballeroは、スペイン語でもイタリア語でも同じ綴り。その複数形がcaballeros。トイレの表示の翻訳語としては「紳士」か「殿方」か。
 スペインもポルトガルも、用便後は紙を使う文化圏ではあるが、その紙を便器に投じて流さずに、そばの屑かごに入れる文化圏である。韓国、台湾、中国、中東、中南米など、同様の文化である。つまり、日常的にトイレットペーパーを使う国で、使用後に紙を便器に流していい国は、日本やアメリカなど世界的に見れば少数である。紙を流さない国々でも、中級以上の比較的新しいホテルでは、トイレットペーパーを流してもいい設備になっているようだが、もちろん施設による差はある。
 私は男で、下痢気味ではないので、個室を観察する機会はあまり多くないのだが、今回のスペイン&ポルトガルの旅で、屑かごがなかったトイレ(つまり、紙を流してもいいトイレ)は、1か所だけだったかもしれない。
 カフェのトイレは地下にあることが多く、誰でも使えるシステムになっている。しかし、一応礼儀として、コーヒーを注文するか、チップを置くことにはなっているが、そんな礼儀を無視するヤカラが少なくないらしい。
 ネットでスペインのトイレ事情を探っていたら、次のサイトにバルセロナのコスタ・コーヒーの話が出てきた。
http://kamimura.com/?p=12575
 要約すると、この店のトイレはカギがかかっていて、カギを開けるには、4ケタの暗証番号を押さないといけないのだが、その番号はレシートに書いてある。ということは、つまり、なにか注文しないと、トイレが使える暗証番号がわからないというシステムだ。コスタ・コーヒーには何度も行っていても、トイレに行ったことがないので、こういうシステムだということを知らなかった。
 日本にありそうな便器をスペインで見かけた。ビーゴだったと思うが、メモをしなかったので場所の記憶がない。もしかすると、ポルトかもしれない。駅のトイレだと思う。小便器にモニターがついていて、コマーシャル映像が流れているのだ。トイレは、目はヒマな場所なので、広告効果は高いと思うが、日本にもすでにあるのだろうか。
 で、ネットで調べてみると、フィンランド、オランダ、台湾、そして日本にもすでにあることがわかった。私がスペインで見たのは、スイスのURIMAT社の製品かもしれない。
http://www.urimat.co.jp/products.html

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