944話 イベリア紀行 2016・秋 第69回

 歩く、歩く


 私の旅の基本は歩くことなのだが、これほど歩くとは思わなかった。私の滞在中、ソル駅を通る地下鉄1号線の中央部分が工事のために運休中だったので、地下鉄を使うのがちょっと面倒だった。マドリッドに着いたときにバスや地下鉄を10回乗れる回数券を買っていたのだが、地下鉄というのは窓の外の景色が見えないからつまらない。だから、なるべく乗らないようにしていた。もったいないから、嫌でも地下鉄に乗るというのは本末転倒だから、回数券を全部使わなくてもいいと太っ腹な態度を決めた。
 アジアの街に慣れているから、ヨーロッパの街が狭いことはよくわかっている。マドリッドの場合、南のアトーチャ駅から北のチャマルティン駅まで直線距離で7キロほどだから、寄り道をしながらの1日散歩にはちょうどいい。この散歩は、東京に例えれば、実際の距離でも感覚でも、東京駅から池袋駅まで歩くのによく似ている。私のマドリッド散歩は、山手線の内側はすべて徒歩移動していたというようなものだった。
 ある日、朝食後に立ち寄ったのは、宿の近くの王立サン・フェルナンド美術アカデミーだった。本来なら素通りする場所だが、水曜日はタダの日だから、寄ってみることにした。予想通り肖像画ばかりで、つまらん。朝飯を食べているときに、地図にMuseo de la Ciudad”「市立博物館」というものを見つけたので、ここから一気に北上する。途中、いつものように工事現場をちょっと見学し、北上を続けたが行きついた先は「バルセロナ!」、つまり、「もう閉鎖しました」というスペインの伝統芸だった。博物館の建物は市の事務所になっていた。「バルセロナ」の意味がわからない人は、このアジア雑語林のバルセロナ編(660,661話)をご覧ください。
 閉鎖にめげず、北上を続ける。チャマルティン駅方面の美術館で写真展。Plaza de Castilla駅近くの、Fundacion Canalが会場。この辺りは、バルセロナのように、建築で地区をなんとかしようという再開発地域だ。写真を撮らなかったので、以下に他人のふんどし。
https://es.dreamstime.com/fotografa-de-archivo-plaza-castilla-de-los-edificios-de-madrid-castellana-image22260992
 写真展は“The Beauty of daily Life”と英語のタイトルがついている。内容はフランス人写真家ロベルト・ドアノー(Robert Doisneau)による1930~60年代のパリ。 彼は、日本語でも情報がいくらでもある有名写真家。
http://www.atgetphotography.com/Japan/PhotographersJ/Robert-Doisneau.html
 もう10キロ以上歩いただろう。その間飲まず食わずだから、どこかで遅めの昼食にしよう。いままで北上してきたから、ここからはソル方面へと南下を始める。
 大通りに面して、スーパーマーケットにしゃれたカフェがついている店があり、明るくて感じがいい。ここにしよう。カウンターに腰をおろし、トルティージャ(オムレツ)を注文したら当然パンがついている。水ひとビン(330cc)も注文。すると、コーヒーの受け皿くらいの皿に、山盛りのツナサラダがおまけについてきた。満腹。食後レシートを見たら、合計3.70ユーロ。安い。
この店はたぶんチェーン店だろうからネットで調べた。すると、あった。マドリッドに8店舗あることがわかった。
http://sanchez-romero.com/cafeterias/

 空腹を満たし、休憩もしたので、カステリャーナ大通りを南下する。左手に見えてきたのはサッカー場だ。サンティアゴ・ベルナベウ・スタジアムは、サッカーをまるで知らない私でも、外壁のデザインでレアル・マドリッドの本拠地だとわかる。平日昼間なので、周辺には誰もいない。
 カステリャーナ大通りをさらに南下すると、右手に見えてきた近代的な城壁に包まれたような施設はいくつかの官庁らしい。この辺は官庁街だ。地図を見ると、この先にMuseo de Ciencias Naturales”(自然科学博物館)と書いてある施設があるので、寄ってみることにした。内容のレベルがわからない施設に7ユーロを払うのは高いと思ったが、トイレと休憩所と考えて、入ってみることにした。
 入るとすぐに、巨大なアフリカゾウの像があった。通常の2倍ほども大きいので作りものだと思ったのだが、職員は「本物のゾウのはく製です。世界で2番目に大きいゾウです。1番は、たしか、ニューヨークにあったと思います」という。
生物の展示はまだおもしろいが、鉱物は退屈だった。
 このあと、本屋巡りなどをやって、7時ころ帰宅。きょうは、たぶん20キロくらいは歩いただろう。ほぼ毎日、こんなことをやっていた。