953話 イベリア紀行 2016・秋 第78回

 小ネタ雑談 その1


1回分にするには満たない小ネタを、まとめて紹介する。
肥満 このテーマですでにコラムを書いたことがあるが、また書きたくなった。アメリカに行ったわけでもないのに、旅先で肥満者が気になった最初はマレーシアだった。散歩をしていると「でかい人」によく出会い、民族的にはマレー系が多いので、なんだかハワイに来ているような気分だった。それからだいぶたったタイでも、同じように「でかい人」に出会うことが多くなったのだが、よく観察してみると、ある特徴があることに気がついた。100キロを超えた男を見かけるよりも、90キロを超えた女を見かける方がよほど多いということだ。しかも、その「女」というのは、10代から30代前半くらいなのだ。これは、いわゆる摂食障害と関係があるのだろうか。スペインに行っても、やはりタイと同じように「でかい女」が多い。80キロではなく、目測100キロ超級だ。
 ジーンズ姿が多いのは、ジーンズなら男女の差はなく、ストレッチジーンズがあるからか。
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■持ち込み 台南を取り上げた旅番組を見ていたら、紹介しているレストランの入り口ドアに、「禁帯外食」と表示してあったのには、ちょっと笑った。マドリッドのスペイン広場からそれほど遠くない路地に、アジアレストランが何軒か集まった地区があり、そこにあるベトナム料理店を歩道からちょっと覗いたら、ドアに「禁止自帯飲品」と書いてあったのを思い出したからだ。ベトナム料理店なのに、中国語の表示があるということは、中国語話者に向けて表示しているということだ。この表示は「飲食物の持ち込み禁止」という意味だ。中国や台湾なら店内持ち込みは公認されているのだと思ったが、そうではないらしい。持ち込みの原則は、「その店で扱っていない商品」なので、誕生日のパーティーをやるので、中国料理店にケーキやブランデーとワインを持ち込むというようなものなら比較的問題がないが、それ以外の飲食物となると、この表示を出している店のようにトラブルが起こる。日本でも、中国人客の持ち込み問題は各所でトラブルを起こしている。もちろん、日本でも同様の掲示がある。
 ■オリーブ オリーブの実の塩漬けが好きだから、日本でも欠かさず買っている。スペインでは事実上食べ放題状態だから、食堂ではうれしくなってひと皿全部平らげる。スペインでも、オリーブは「オリーブ」に近い名前だろうと信じて疑わなかった。英語でolive、同じ綴りでドイツ語ではオリーベ、フランス語でolivier、イタリア語では、oliva(女性形)、olivo(男性形)、olive(複数形)とちょっと姿を変えるが、語形は「オリーブ」の仲間と言っていい。だから、スペインでも同じだろうと思っていたら、まったく違うのだ。私が大好きなオリーブの実の塩漬けを、スペインではaceitunaという。塩漬けになると名を変えるのかと思ったら、そうではない。塩漬けになっていなくても、この名前だ。
 そこでちょっと調べてみると、植物名はolivaだ。「うちの庭には、オリーブの木が何本かある」というような文なら、olivaを使うのだが、スペインではその植物の実を別の単語aceitunaで表現する。ポルトガルでも同様で、olivaの実は、azeitonaになる。
 スペインやポルトガルでは、なぜオリーブの実は「オリーブ」ではないのか。そもそもaceitunaという語の正体は何だと調べてみると、アラビア語のaz-zaytunaらしい。そういうことだったのか、わかったぞ。イベリア半島は長らくイスラム勢力下にあったので、ラテン語系のolivaとアラビア語系のaceitunaの両方が残っているのだ。
 スペインのオリーブ事情を調べていたら、aceite de olivaという単語に出会った。aceiteはaceitunaの仲間の単語だろう。調べてみれば、この熟語は「オリーブ油」という意味だ。aceiteは「油」という意味なのだ。aceituna系の語が「油」ということは、スペインにおいて、油とはもともとはオリーブ油のことだったとわかる。もしやと思い、オリーブの学名を調べてみると、Olea europana。Oleaはラテン語oleum(油)のことだから、油を表すoil(英語)、oile(イタリア語)、ole(ドイツ語)huile(フランス語)が仲間だ。オリーブはもともと油をとる植物として認識されていたのだということが、学名からもわかる。
 やはり、わからないことは調べてみるものだ。