956話 イベリア紀行 2016・秋 第81回

 小ネタ雑談 その4


■デモ テレビのニュースを見ていたら、議会で何か大きな動きがあったようで、ずっと政治ニュースを続けていた。そして、その夜、近所で大きなデモがあった。なにしろ、我が安宿は国会議事堂がご近所という政治地区でもあり、何が起こっているのか知りたくで外出した。国会に向かって、比較的温厚な抗議行動をしている数百人ほどの人がいて、その抗議のいきさつなどを解説してくれそうな人を探すと、デモ隊から少し離れて、全体を眺めているグループがいることに気がついた。職業的勘としか言えないが、彼らは社会運動家とかジャーナリストとか大学講師といった雰囲気があって、政治がわかり、解説できる能力があり、英語もうまいだろうと想像した。
 立ち話をしている40代の男女に話しかけた。女性が私の質問に答えてくれたが、内容がよくわからない。「ごめんなさい。よく理解できなくて・・・」というと、男の方がなめらかな英語で、わかりやすく解説してくれた。しかし、話の内容が頭に入ってこない。スペイン現代政治史がなにひとつ頭に入っていないのだから、当たり前だ。
 「非常に複雑で、わかりにくい話で、つまり・・・」ともう一度解説してくれたのだが、わからない。これではどうにもならないので、礼を言って別れた。帰国後勉強することにしよう。
 ただ、ひとつわかったことがあった。ビルバオに着いた日の夕方、若者たちが我が宿の近くの劇場前広場に集まってきていた。劇場でコンサートがあるのかと、「本日の予定」を見たら、日本人ダンサーのショーがあるが、そのために数百人の若者が集まってくるとは思えない。若者たちは、何かのプラカードのようなものを手にしているが、わたしには解読不能だった。宿で聞き込みをしてみたが、「さあ、なにかなあ。知らない」ということだった。そうか、あの夜の抗議行動は、政府に対する若者の異議申し立てだったのだと、マドリッドに来てからわかった。
 さて、その政治問題だ。これが、わからん。スペイン政治の動きをちょっと追ったのだが、正直、わからない。少数与党が連立政権を作れないので、政権ができなかったのだが、その夜突然・・・ということらしいのだが、ここでその概要を説明する能力と知識はない。独裁政権市民運動といった構図だと比較的理解しやすいのだが、党利党略が絡み合い、「混乱している」という以上の説明ができない。日本語の解説を読んでも理解できないのだから、スペインで英語の解説を聞いて、わかるわけはない。高野豆腐のような我が脳味噌を嘆くしかない。
フランコ時代 ある日の夜にソル広場で開かれた老人たちの抗議集会は、すぐに理解できた。古い顔写真が百枚以上掲げてあった。垂れ幕の文章になかに、”Franquismo”という単語を見つけた。見たことのない単語だが、独裁者フランシスコ・フランコ(1892~1975)の時代を意味しているのだろうと想像した。あとで調べると、スペイン政治の論文でも日本語で「フランキスモ」と表記するらしく、「フランコ時代の独裁政権の諸々」を意味している。
タブロイド版の印刷物をもらった。見出しが目に入った。
SIN MEMORIA HISTORICA
NO HAY DEMOCRACIA
「歴史の記憶なくして、民主主義なし」
 印刷物のなかのページを見ていくと、女装した男と思われる人たちの写真があり、目元は隠されている。フランコ時代には、同性愛者も犯罪者扱いされたことがわかる。
ひと目見て、この抗議集会の意味がわかったのは、顔写真を掲げた同じような抗議をテレビで見たことがあるからだ。チリのピノチェット政権下で、闇に葬られた人々の家族が抗議の声をあげているシーンだ。マドリッドのソル広場に集まった人々も、フランコ政権下で犠牲になった人々の家族や友人たちなのだろう。
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