976話 大阪散歩 2017年 第15回

 こんなカツ丼もあるんだ


 スーパー玉出かつ丼弁当は、タマゴがあまり見えないのだ。その姿から作り方を想像すると、醤油が入っただし汁にタマゴを割り入れて加熱し、丼のご飯にかける。親子丼やタマゴ丼の要領だ。そして、その上にあげたカツをのせる。あるいは、タマゴを割り入れた小鍋にカツを入れ、それを丼の飯にのせたのかもしれない。つまり、醤油味のだし汁でカツをちょっと煮て、その上にタマゴを割り入れるという作り方ではないのだ。
日本各地にさまざまなカツ丼があることはわかっている。ソースカツ丼もあれば、醤油の汁をかけたり、その汁でカツを煮てから飯にのせたカツ丼もあることは知っている。名古屋には、当然ながら味噌カツ丼があるようだが、私の趣味ではないので食べたことはない。
 さまざまなカツ丼があることは知っていたが、こんなカツ丼は見たことがない。「おお、これが大阪風カツ丼か!」と新発見をした気分だったが、これから確認の作業をしないといけない。うまい具合に、スーパー玉出の向かいに、「なか卯」がある。宣伝文句は「丼ぶりと京風うどんのなか卯」で、おもに麺類と丼物を食べさせる大チェーン店だ。1969年に大阪府茨木市で第1号店を出したうどん屋だが、現在の経営はすき家などを運営しているゼンショーホールディングスである。
 店頭の写真入りメニューでカツ丼を探すと、すぐに見つかった。「おお、これもスーパー玉出のカツ丼弁当と同じ姿だ。わかりやすいので、今後このタイプをなか卯型と呼ぶことにする。
 HPの写真は、これ。
http://www.nakau.co.jp/jp/menu/detai

 この写真で見てわかるように、タマゴがカツにかかっていない。我が調査の欠点は、店頭の写真メニューで確認し、ホームページでも確認したが、現物を食べていないということだ。気になるものを全部食べていたら、胃袋がもたない。だから、写真で確認して、おしまいとした。
 それ以後、散歩をしていて食堂を見つけると、店頭の料理サンプルをのぞき込んで、確認作業をするようになった。こういうフィールドワークをやると同時に少しは聞き取り調査もした。その結果、多数派は東京と同じようにタマゴを割り入れたカツ丼らしい。
地下の食堂街で、おもしろい店を見つけた。丼物と定食の専門店だ。その店には、カツ丼が3種類あった。ソースカツ丼があるが、今回は研究対象から除外する。残るのは、「カツ丼」と「カツとじ丼」。料理サンプルを見ると、「カツ丼」というのは、なか卯型で、「カツとじ丼」というのは、タマゴが見えるなじみのカツ丼だ。ネットで調べると、「カツとじ丼」というのは、その店だけの名称ではなく、かなり広く使われている用語らしいとわかる。あのなか卯には、「カツとじ定食」というのがあるとわかった。
http://www.nakau.co.jp/jp/menu/detail/in/84
 グリコには、かつて「かつとじ丼」というレトルト食品があったとわかった。「カツとじ丼」で画像検索すると、いくらでもその例が見つかる。
http://www.glico.co.jp/info/20080131/
 いろいろ探ってわかってきたのは、「カツとじ丼」というのは、一種の方言ではないかと思えてきたことだ。「カツ丼」といっても、ソースカツ丼や醤油汁で煮たカツをのせた丼などタマゴを使わないカツ丼が存在する地域では、タマゴでとじたカツをのせた丼を表す語「カツとじ丼」などいくつかの名前で呼んでいるのではないかという仮説だ。江崎グリコは、大阪の企業だ。
 もうひとつの仮説は、カツ丼とは別に、カツをタマゴでとじて皿に盛った一品料理が「カツとじ」で、その例が大阪の食堂で見かけた「カツとじ定食」だ。そして、その「カツとじ」を丼の飯ののせた者がいて、「カツとじ丼」と呼んだことで混乱が起こっているという仮説だ。
 「ウチの故郷では、カツ丼といえば、天丼みたいな醤油ダレをかけたもので、東京風のカツ丼は「タマゴカツ丼」と呼んでますよ」と言っていたのは、九州出身の知人。
 大阪散歩をしてカツ丼調査をした結果、大阪でも「カツ丼」といえば、多数派は東京と同じ姿のタマゴでとじたものだとわかってきたが、「ちょっと違う姿のカツ丼も見かける」とも言える。カツ丼も、地域によってさまざまなスタイルがある。