982話 大阪散歩 2017年春 第21回

 カレーを何皿か


 大阪のカレーといえば、全国的に有名なのは自由軒だろう。1910年の創業だから、100年以上続く日本最古のカレー屋だ。カレー汁と飯をチャーハンのごとく混ぜてから客に出すことでも知られている。今まで何度か行っているし、2年前にも行ったので、今回はパスした。
 2年前のこと、店に入ると4人ほど客がいて、中国語をしゃべっていた。そのあと入ってきた客は、メニューを指さし無言で注文した。ウエートレスを務めるおばあちゃんは「Big? Small?」と聞いている。私以外の客全員に同じ質問をしているから、つまり、日本人客は私ひとりだということだ。しばらくして5人連れの客が入り、ほぼ満席になった。聞こえてくる会話は、タイ語だった。大阪のカレー屋が、まさかこういうことになるとは、店で働くおばあちゃんたちは思ってもいなかっただろう。
 大阪に行ったらカレーを食おうなどと思ってもいなかったのに、散歩をしているとカレー屋がやたらに目についた。そのうちの2店はどうやらチェーン店らしく、とくによく見かける。散歩の流れで昼飯をつい食いそびれた遅い午後、ほかに適当な店が見つからず、やむなくその2店に入ってみた。これも大阪の食文化研究だ。
 上等カレーの看板をよく見たが、調べてみれば東京にも何店かあるらしい。神田にも新大久保にもあるようだが、見た記憶がない。
https://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27007931/
 私はカレーにいろいろのせるのが嫌いで、カレーもトンカツも好きだが、カツカレーが好きではない。というわけで、何ものせないカレーを注文した。これが、「困るカレー」だった。この語は、昔、友人との会話でよく使っていた表現で、飯の量に比べてカレーが極端に少なく、カレーの配分を熟考しないと、食事後半は飯だけを食べることになるという「困ったカレー」だ。この店のカレーは、50年も昔からある洋食屋のカレーの味だった。
 もう1店は、船場カリーだ。カレーではなく、「カリー」と表記しているが、イギリス風というわけではない。
http://www.curryhouse.co.jp/menu.html
 ここのカレーは個性的だ。真っ黒だ。いわゆる欧風カレーよりもさらに黒く、食べてみても、何の味かはよくわからず、「こういう黒は、イカ墨以外考えにくい」と想像した。あとで調べてみれば、想像通り、全品イカ墨入りの黒いカレーだった。辛さについてはとくに注文はしなかったので、「標準」なのだろう。私にはまったく辛くなかった。牛すじカレー800円を注文。イカ墨入りはこの店の個性なのだが、私の好みでいえば、イカ墨はなくてもうまいカレーになると思う。
 黒いカレーとともに驚いたのは、「まったく困らないカレー」だ。飯の量に比べて、これほどカレーの量の多い店を知らない。だから、うれしいカレー屋だ。
 大阪旅行最後の食事は、これまたひょんなことからカレーだった。昼に関空から出るので、昼飯どころを探していたら、「印度のルー」という看板を掲げたカレー屋を見つけた。インド風のカレーかと思ったら、鉄の皿に盛ったビーフカレー福神漬けも添えられて、到底「印度」ではなかった。
 ちなみに、「インドだからビーフカレーはおかしい」という人がいるが、イスラム教徒は牛肉も食べる。だから、インドにビーフカレーはある(もちろん、「カレー」とは呼ばないが)。私は何度も食べている。ポークカレーもあるが、ゴアなどほぼ地域限定だろう。