新今宮から天王寺に行くには、JR線の沿って走る大通りを歩いて行くのが最短ルートなのだが、いつも同じ道ではおもしろくないので、新今宮から南下して萩ノ茶屋、太子、山王、天下茶屋と大回りの散歩をして天王寺駅を目指して歩いていたら、「これはなんだ？」という風景に出会った。天王寺駅前がニュータウンになっていることに初めて気がついたのだ。
首都圏でも京阪神でも、私鉄沿線の田園地帯に、鉄道会社と自治体が共同で開発したようなニュータウンがある。そういう景色が、天王寺駅のすぐ近くに広がっている。天王寺駅は郊外の新しい駅ではなく、東京でいえば池袋のような場所だ。大阪を知らない東京人に解説をすると、池袋のジュンク堂の裏一帯が高層マンションの建ち並ぶ晴海（東京都中央区）のような景色になっているといえば、少しはわかってもらえるか。天王寺駅から歩いて5分くらいのところに、ニュータウンを作れる土地があったとすれば、そこに大工場や野球場付きの大学とか自衛隊の基地とか、なにかあったということになる。そんなことを考えたら天下茶屋の散歩などどうでもよくなった。この好奇心を抑えられない。
庭で植木鉢に水をやっているおばあちゃんがいたので、話を聞きたくなった。
「すいません。ちょっとお伺いしますが、あのあたり、マンションが建ち並んでいるあたりは、元は工場とか学校とかがあった場所ですか？」
40年以上この地に住んでいるというおばあちゃんは、けげんな顔をした。「いや、学校も工場もありませんよ」という。「それでは、どういう地域だったんですか」と聞くと、「ただの家や商店や、ここいら辺と同じようなトコでしたよ」
天王寺駅前に超高層ビルあべのハルカスがある。しかし、そのすぐ後ろは木造の商店街が続いている。路面電車の上町線を挟んで隣り、旧称金塚、現在の地名は阿倍野筋や旭町になっている部分は、阪神高速14号線、あるいは地下鉄谷町線阿倍野駅の北と南で、風景がまったく違う。かつては北側も、今の南側と同じように木造住宅と店舗併用住宅などが密集していたということか。この南側は、明治7年開園の大阪市設南霊園の広大な敷地が広がっているという場所でもある。
帰宅して、インターネットで情報を集めると同時に、雑誌「大阪人 特集実感阿倍野」（2010年9月号）を取り寄せて、「ニュータウン」関連のいきさつを調べてみた。
天王寺は交通の要所であり、繁華街でもある。古くからの繁華街ということは、戦前からの木造住宅が老朽化したまま残る地域でもあった。駅前再開発の計画は1976年から始まったが、地権者が多く、反対運動なども多く、景気低迷による事業計画の見直しなど、紆余曲折あって、やっとなんとか完成したというのが、つい最近だ。
大阪市側の資料は、これ。
http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000021614.html
利害関係のない民間人のレポートはこうなる。
「大阪DEEP案内」2007年のレポートだ。
http://osakadeep.info/abeno/
消防や衛生を考えての再開発というのは、建前としては正しいが、幾重にも重なりあった利権のニュータウンではある。交通の便を考えれば、私が住みたいかどうかは別として、住宅地としては便利で快適だとは思う。だから、かなり高額だろう。
大阪に詳しくない人に説明しておくと、阿倍野のこのニュータウンは阿倍野区にある。ニュータウンの西のはずれにある道路を渡ると、環境が一変する。西成区に入ったからだ。この差は、わかりやすい。アメリカとメキシコの国境か。
自宅で現地を見たい人は、googleの航空写真を３Dにして見てみましょう。高層マンション街のすぐ南に、広大な墓地と、元遊郭で古い家がそのまま残る飛田新地がある立地がよくわかる。
https://www.google.co.jp/maps/place/%E3%80%92545-0052+%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%BA%9C%E5%A4%A7%E9%98%AA%E5%B8%82%E9%98%BF%E5%80%8D%E9%87%8E%E5%8C%BA%E9%98%BF%E5%80%8D%E9%87%8E%E7%AD%8B%EF%BC%94%E4%B8%81%E7%9B%AE%EF%BC%91%EF%BC%99%E2%88%92%EF%BC%91%EF%BC%91%EF%BC%95+%E5%8D%97%E9%9C%8A%E5%9C%92%EF%BC%88%E4%BA%8B%EF%BC%89/@34.636792,135.5059187,1045a,35y,39.21t/data=!3m1!1e3!4m5!3m4!1s0x6000ddec118f155f:0xd4225e10faba91e3!8m2!3d34.6400165!4d135.5101876
