992話 大阪散歩 2017年春 第31回

 雑話集 その3


●前回大阪に行ったときには訪れる機会がなかった、重要文化財適塾にいった。散歩の途中に地図を見ていたら、すぐ近くに適塾があることがわかり、「よし、行ってみるか」となったのだ。淀屋橋だ。入口の入場券販売所に立つと、「あと30分で閉館ですが、それでもいいですか?」と言われた。時計を見ると、3時30分。4時閉館? 「入場4時まで、閉館5時」というなら、わからないでもないが、4時閉館。10時開館で4時に閉める。飲食店ではないから、後片付けとか翌日のための仕込みもないわけで、大阪大学所有のこの施設は何を考えているんだ。楽な公務員のお仕事だ。
そんなことがあって、「大阪の博物館や美術館の開館時間は短いのではないか」という仮説を思いついて、調べてみたくなった。
大阪市立東洋磁陶磁美術館  9:30〜17:00
国立民族学博物館      10:00 ~17:00
国立国際美術館       10:00〜17:00  金土 10:00〜20:00
藤田美術館         10:00〜16:30
あべのハルカス美術館    10:00〜20:00(火〜金)、10:00〜18:00(土日月祝)
あべのハルカス美術館の閉館時刻が、休日の方が早いという理由が思いつかないが、それはともかく、なるほど、10時〜5時というのが、関西のほぼ常識らしい。ついでに、東京の事情も調べてみた。お役所仕事は東西変わらないのか。
国立科学博物館      9:30〜17:00 金土9:00〜20:00、7・8月の金土は21:00
国立西洋美術館      9:30〜17:30 金土9:30 〜20:00
東京都美術館        9:30〜17:30
三菱一号館美術館     10:00〜18:00 
森美術館         10:00〜22:00
適塾の時短営業で気になった点を調べてみたら、やはり大阪は博物館や美術館が早めに閉まるという事実がわかった。科学博物館と西洋美術館の攻めの姿勢を評価したい。職員は大変だろうが、多くの美術館や博物館が11:00〜20:00の開館時間にすれば、仕事帰りにも寄れるのにね。マドリッドの夜の美術館の話(938話)を思い出してください。夜も開いていて、無料の日もある。美術館や博物館は、いまだに「見せてやっているんだから、ありがたく思え」の姿勢だ。
●台湾同客餃子館(北区東天満)の台湾人店主と雑談。店主の悩みは、台湾そのままの料理を出したいのに、「客はゆで餃子ばかり注文するんですよ」。そうだろうな、私だって焼き餃子を注文した。台湾にも日本人の影響だろうが、焼き餃子がある。台湾の焼き餃子は、鍋貼(クオテイ)といい、餃子の両端を閉じていない。日本では「棒餃子」の名もある。煎餃にはいくつか種類があるが、冷めたゆで餃子を鉄鍋で焼いたものもあれば、初めから焼くために作った餃子もある。蒸餃というものもあり、広東式のエビ餃子などはうまい。普通の小麦粉の皮で包んだ餃子を蒸したものを台湾で食べているが、「食えるが、うまいもんじゃない」という感想だ。
 豚バラ肉を細かく切って煮込んだ丼物、魯肉飯(ルーローファン)にも不満があるという。この料理は、肉といっしょに煮たタマゴも添えることになっているのだが、「生タマゴにして!」という客が多いのだという。
そんな話をしていたら、台湾に行きたくなった。
 道頓堀を散歩中に少し遅めの昼時になり、路上にボーゼンと立つ井之頭五郎孤独のグルメ)のようになったので、後先を考えず、虫抑えですぐ近くのたこ焼き屋に入った。「失敗した」と思った。空腹だと頭が働かず、我慢もできなくなる。失敗の原因は、店内の壁のほとんどが、関西芸人のサイン色紙で埋まっているからだ。テレビのお手軽「町レポ」でも、何度も紹介されている店らしい。その手の店はできれば避けたかったのだが、入ってしまったからしょうがない。大阪の有名たこ焼き屋の味を試してみよう。
食べた。「あーそーだった。だから、今まで大阪でたこ焼きはほとんど食べなかったんだ」と思い出した。私が奈良に住んでいた頃も、店や屋台で売っているベチャベチャにゆるいたこ焼きが好きではなかった。だから、うちにあったたこ焼き鍋で、カマボコや竹輪を具にして、堅いたこ焼きを作ったのだ。
 道頓堀のその店が「まずい」という気はない。大阪人に愛されているならそれでいいのだ。ただ、私の好みじゃないというだけだ。だから、私の好きなたこ焼きは、群馬生まれの「築地銀だこ」だ。表面がカリカリに揚がっているたこ焼きで、なかも大阪風のべちゃべちゃではない。いま店舗検索をしたら、なんと大阪にも14店舗ある。大阪の銀だこ事情を検索すると、「あれはたこ焼きじゃない」という意見がいくつかある。表面のカリカリ具合が、とてもたこ焼きとは思えず、大阪ナショナリズムが「否,不是、マイチャイ、アニョ、no、non、nien!」と否定している。まあ、そうだろうなと想像していたから、いままで大阪に銀だこが進出しているかどうかも調べなかったのだ。大阪以外にも兵庫や京都にも進出しているということは、一定の評価はあるということだ。大阪ナショナリズムを鼓舞しても大阪のうどんは讃岐うどんの進出を許したように、じわりじわりとカリカリのたこ焼きが浸透していくかもしれない。