旅費にまつわる物価の話
紀行文の文学性を重要視する人はカネの話はしないことになっているのだが、読み手にとっては旅行地の物価がわからないと、文章の中身をうまく把握できないこともある。私には旅行ガイドは書けないが、物価の話だけはしておこう。紀行文のノンフィクションである。
成田空港で両替して、1ユーロが136円だった。これは為替レートではなく、為替レートに手数料を加えた1ユーロの金額を示している。いいレートを示して、両替してしまうと、高額の手数料が加算してある業者もいるので、要注意だ。ちなみに、昨年のスペイン旅行では、1ユーロが128円だった。
私の体験では、4月から10月のハイシーズンのイタリアの安宿事情は、個室でのひとり宿泊で、最低で30ユーロ、最高で73ユーロだった。こういう料金は、インターネットなどで予約するかどうか、あるいは平日か週末か、あるいは同じ宿でも部屋によって料金が違うこともあるから、一応の目安と考えてほしい。1泊30ユーロは、日本円にすれば約4000円というのが、個室の最低料金だと思えばいい。宿にもよるが、ふたりで泊まればひとり当たりの宿代は半額になるから、ひとり旅は不経済である。
あるB&Bに行くと、「部屋はあるが、75ユーロ」と言われ、「それは高い!」と言ったら、即座に「45ユーロでどう?」と大幅に安くなった。そういう体験を、数度している。
30ユーロの宿というのは、B&Bである。スペインではペンシオーネという民宿である。イタリアでは、「ゲストハウス」という語はあまり使わないようだ。トイレやシャワーは共同だ。宿によっては、この料金でドミトリーというところも少なくない。ドミトリーの場合は、台所が自由に使えるとか、洗濯機があるとか、宿によってサービスの違いがある。今回の旅で最高額の73ユーロ払ったのは、週末のミラノだ。何軒か探して、ここが一番安かった。見本市をやっているときの週末は、どのホテルもほぼ満室になり料金が高くなるのがミラノだ。
HOTELと表示していれば、トイレとシャワーとビデがついていることが多い。ヨーロッパのホテルは、昔はエアコンはついていなかったらしいが、私が泊まった宿には皆エアコンがついていた。旅行をしたのが、冷房も暖房も必要ない時期だったので、実際に使えるかどうかの実験はしていない。シャワーがあるから、当然湯は出る。
ローマのホテルのマネージャーによれば、11月1日からローシーズンに入り、その宿では60ユーロの部屋が50ユーロになるという話だったが、当然ホテルによって金額に違いはある。
宿は朝食付きのところが多い。私はコーヒーを何杯も飲みたいから、外の店で朝食を食べると高くつく。アメリカン・コーヒーが1杯1.5〜2ユーロするから、コーヒーを2,3杯とサンドイッチを注文すれば、10ユーロ近くかかる。だから、いいB&Bが見つかれば、朝飯代を差し引いて、実質20〜25ユーロの宿代ということになる。
食費の話。あらかじめ焼いてある安いピザを切り売りする店では、ひと切れ1.5〜2.5ユーロくらいだ。厚いパンピザだから、小食の日本人なら、ひと切れでほぼ満腹するだろう。飲み物は1〜2ユーロ。店でピザを買い、あらかじめ買ってある水と一緒に公園などで食べるなら、1食が数ユーロというのが最低線だろう。ハムやチーズを挟んだサンドイッチだと、その倍くらいの値段になる。
店に入って、メニューを見て注文となれば、料理代、飲み物代、店によっては席代(copertoという)をとる。日本のように、サービス料(servizio)を加算して請求する店もある。したがって、少しチップを置くとして、10ユーロくらいが最低の出費ということになる。
交通費は日本よりかなり安いと思う。新幹線のような列車で、日本のグリーン車のように2席+2席の2等車で、最高速度280キロ近くで走って5時間、これで43ユーロだったことがあるが、同じような列車で6時間乗って、94ユーロだったこともあるが、それでも日本の新幹線よりは安い。路線によっては、バスが安いとは必ずしも言えないと思う。
というわけで、私の旅は、航空運賃を除く全出費を旅行日数で割ると、1日あたり約1万円という計算になった。毎日ひもじい思いをしていたわけではない。私の旅は基本的にカネをあまり使わないのだ。タクシーには乗らない。ブランド品も美術品も買わない。雑貨も買わない。買い物に興味のない男なので、そういう費用はかからない。酒は飲まない。美術館にも行かないから、一部の博物館くらいしか入館料はかからない。歩くのが好きだから、カネのかからない旅行者である。