1071話 イタリアの散歩者 第27話

 「イタリア料理」は新しい 〜ピザとスパゲティの話 その4
    アメリカ式ピザ

 ピザの第2グループは、アメリカ式ピザだ。
 アメリカ式という呼称は私が勝手に名付けたものだ。特徴は具が多い。多種かつ大量に具がのっている。ただし、「大量」といっても、店による差が大きいものの、マルゲリータのようにバジル数枚の具というようなことはないが、安っぽい店では、やはり具は少ない。
 鉄皿に入れてオーブンで焼いたピザが多く、厚い。切り分けて、1切れ単位で売る。店によっては、紙にのせて、「はい」と手渡されることもあれば、厚い紙皿にのせてくれることもある。客は店内のカウンターで立ち食いしたり、簡単な椅子に腰かけて食べることもできる。店内に食べる場所がなければ、そのまま店を出て、近くの公園に行くか、路上で立ち食いということもある。あるいは、紙袋に入れてもらい持ち帰る客もいる。四角く厚いピザということが多いが、丸い物もある。ただし、ナポリ型よりは厚い。宅配ピザの姿を思い浮かべれば、わかりやすいか。
 数千か数万のピザがあるから、「厚い」か「薄い」か、具の種類や量など千差万別だから、かなり乱暴な話をしている。観光客が多い地域では、テーブルクロスがあるような、ちょっと高そうな内装の店でも、この手の切り売りピザを出すこともある。あらかじめ焼いたピザが店頭にあるので、イタリア語がわからなくても、指さすだけで注文できる。しかも、2人で3〜4種のピザを食べることもできる。というわけで、外国人観光客には、こういう店の方が使いやすい。清潔そうだし、店のトイレも使えそうだし、英語が通じるし・・・というわけだ。
 値段はピザの大きさや具や、店の立地などによって違うが、1枚が1.5〜2.5ユーロくらいが多いが、私はひと切れ6ユーロというのも食べている。スペイン広場からあまり遠くない場所だから、観光客価格だろう。通常のピザひと切れなら、私の胃袋では「腹7分目」だから、1枚ではもの足りない。だからと言って2枚食べてしまうと、腹が重く苦しむことになる。物価が高いベネチアでは、ひと切れが小さめだと感じた。
 これも店によってなのだが、「これ!」とピザを指さすと、十数秒間オーブンに入れて温め直してくれるところと、冷めたまま客に差し出す店がある。その場合、「まだ温かい」と思っているのかもしれないが、実際はかなり冷めていることもある。どういうピザであろうと、手に持ってかぶりつく。イタリア通を自任している人が、「イタリアではピッツアはナイフとフォークで食べるのが常識です」などと、無知な輩に教えてあげようとネット上に書き込んでいるが、その人こそ、イタリアを知らないのだ。
 伝統派は、ジャガイモやフライドチキンなどをのせたピザを、「あんなものはピザじゃない!」と非難するが、そもそもピザは貧乏人が腹いっぱいにできる安い飯だった過去を考えれば、分厚く具が多く安い、こういうピザの方こそ、正しい伝統を守っていると言えないか。ナイフとフォークでお上品に食べるピザは、決して「伝統的」ではないのだ。すしもそうだ。元々は屋台の食い物だったのだ。



 これが、レストランのピザ。アンチョビが少しのっているだけ。


 そして、こちらが、私が言う「アメリカ式」のピザ。姿がかなり違うから、この2種のピザを混同して語ってはいけない。このピザは、重さで売っているのが珍しくて、撮影した。100グラムのピザって、どのくらいあるのだろう。


 三角皿のピザは、ズッキーニとトウモロコシ。


 こちらは、ほうれん草のピザ。紙にのせて、「はい」。


 これが6ユーロのピザ。たしかに豪華ではあるが、飲み物もバカ高かった。貧乏人が観光地区で飲食してはいけないという教訓だが、外国人の食欲をそそる姿である。こういうフカフカのピザを、PIZZA AL TRANCIOピザ・アル・トランチョという。