1078話 イタリアの散歩者 第34話

 「イタリア料理」は新しい 〜ピザとスパゲティの話 その11
    パスタの直径で見る種類

 
 紐状のパスタの種類がよくわからないのだ。明確な区別があるのだろうか。この話は少し前に書いたが、はっきりさせたいことがあるので、もう一度改めて書く。日本語や英語などのウィキペデピアの「パスタ」の項に出てくるlong pastaのカタログ写真を見る。出典はわからない。太い方から、書き出してみる。
 Macchroncini
 Bucatini
 Vermicelli
 Vermiellini / Spaghettoni
 Spaghetti
 Spaghettini
 Capellini
 となっている。
 ウィキペディアの“Vermicelli”には、イタリアでの規定として、具体的な直径が載っている。
 Vermicelli・・・・・直径2.08〜2.14mm
 Spaghetti・・・・・直径1.92〜2.00mm
 Vermicellini・・・・直径1.75〜1.80mm
 Fedelini・・・・・・直径1.37〜1.47mm
 Capellini・・・・・・直径0.8〜0.9mm
 アメリカの規定は、
 Spagetti・・・・・・直径1.50〜2.80mm
 Vermicelli・・・・・ 直径1.50mm以下
 Vermicelliの太さは、イタリアとアメリカでは逆になっている。
 日本農林規格では、マカロニやスパゲティの太さに関する規定はないようだが、現状はどうなっているかという調査はある(農林水産消費安全技術センター「マカロニ類の日本農林規格に係る企画調査結果」による)。
 ①「マカロニ」は、2.5mm以上の太さの管状又はその他の形状(棒状又は帯状のものを除く)に成形したもの。
 ②「スパゲッティ」は、1.2mm以上の太さの棒状又は2.5mm未満の太さの管状に成形したもの。
 ③「バーミセリ」は、1.2mm未満の太さの棒状に成型したもの。
 「マ・マー」ブランドの日清フーズでは、太さにかかわらず、すべて「スパゲティ」として販売している。
 イタリアではスパゲティより太ものがVermicelliなのだが、アメリカでは「スパゲティと同等か細いもの」になり、日本では極細パスタのことになっている。
『食のイタリア文化史』(アルベルト・カバティ&マッシモ・モンタナーリ、柴野均訳、岩波書店、2011)を読んでいて気になったのがそこだ。ベルミチェリの説明が、日本の既定のまま「スパゲティよりも細いパスタ」になっているが、原文はイタリア語なのだから、それでいいのだろうか? 
 この本に数多く登場する「マカロニ」という語も気になった。マカロニは日本語である。元は英語のmacaroniであり、その元はイタリア語のmaccheroneの複数形maccheroniなのだが、この「マッケローニ」はそのまま日本語が意味する「マカロニ」ではない。時代によって、地域によって意味するものは異なっているのだが、この本では「マカロニ」も、「マッケローニ」も混在して使っている。この本は、他のことでもやはり精密さに欠けると、イタリア語も知らぬ素人がイタリア人の専門家が書いた学術書にいちゃもんをつけたくなる。『イタリア料理のアイデンティティ』(マッシモ・モンタナーリ、正戸あゆみ訳、河出書房新社、2017)も、『パスタ万歳!』(マルコ・モリナーリ、菅野麻子訳、リベルタ出版、1999)も同様に、訳語の「マカロニ」が数多くでてくる。
 1954年のイタリア映画「ローマのイタリア人」で、スパゲティのようなひも状のパスタを「マッカローニ」と呼んでいるということはすでに書いた。これも「マカロニ」と翻訳したらまずいだろう。
 maccheroniというイタリア語は、古くはニョッキ(gnocchi 団子状のもの)のようなものをさし、のちに今日のpastaのように総称として使っていたようだ。パスタのなかのひも状のものがvermicelliだ。これがアメリカに渡り、総称はmaccheroniのままだが、ひも状のspaghettiと、ひも状ではあるが筒状のmacaroniと分けて呼ぶようになった。これが私の想像だ。
 Macaroniは、スパゲティよりも早く日本に入った。日本でも戦前期は、長いままのパスタで、料理によって好みの長さにちぎって使っていた。だから、マカロニは、日本でも最初から筒状の短いパスタではなかった。
 イタリア語のmaccheroniを画像検索すると、ひも状のパスタがいくらでも出てくる。特に多いのが、maccheroni alla chitarra(マッケローニ・アラ・キターラ)というものだ。意訳すれば、ギター・パスタだ。ギターというよりは琴のように金属弦を張った箱に、練った小麦粉を薄く伸ばしたものを乗せ、細く切った麺だ。だから、麺の断面は四角い。調べれば、spaghetti alla chitarraという名もある。つまり、マッケローニでもスパゲティでも、どちらでもいいということか。
 http://www.chietitoday.it/cronaca/tradizioni-ricetta-maccheroni-alla-chitarra.html
 そして、こういう料理もmaccheroniとしているから、イタリア語の文章に出てくるmaccheroniを機械的に「マカロニ」と翻訳するとまずいのだ。
 http://topricette.pianetadonna.it/ricette/maccheroni_alla_chitarra.html

 次の写真はナポリのレストランの料理。宿の主人リビアさんの推薦で行った店はRaguが売り物で、それをZitiで注文した。ラグーというのは、ミートソースのこと。ズィティというのは、筒状のパスタだから、日本風に言えばマカロニだろう。このZitiはイタリアよりもむしろアメリカの方がポピュラーのようで、"baked zuti"の情報はいくらでも出てくる。日本風に言えば、マカロニ・グラタンか。
 zitiの画像はこれでもわかる。日本のアマゾンでは見つからないが、アメリカのアマゾンで見つけた。
https://www.amazon.com/Barilla-Ziti-Pasta-Ounce-Boxes/dp/B00MNX9T68