1202話 プラハ 風がハープを奏でるように 第11回

此頃都ニハヤル物 その3

 

 プラハでよく見かけたものの続きだ。

 2、タイ・マッサージ

 プラハでもっとも有名な広場といえば、旧市街広場とバーツラフ広場が首位争いをするだろうが、繁華街でもあるという条件を加えると、バーツラフ広場が首位に来る。そこは、正確には広場というよりも、大通りと呼んだほうがいいのかもしれないが、チェコ語でもnamesti(広場)だ。昔の写真を見ると中央を路面電車が走る大通りだったが、線路部分が広場になり、何かの催事があると車道部分が閉鎖され、長さ700メートルほどの細長い広場になる。

 高級ホテルも立ち並ぶこの広場の歩道で、タイのサムローティープを見てしまった。今でもタイの地方都市ではタクシーとして使われている三輪自転車のタクシーだ。ベロタクシーなどと呼ばれる別の姿の三輪自転車はヨーロッパにあるが、この形のサムローは1980年のサンフランシスコで観光タクシーとして使われているのを見て以来、タイ国外では見ていない。プラハでも、これで観光タクシーをやっているのだろうかと思って写真を撮ったのだが、なんだか変だ。振り返ると”THAI  MASSAGE”の看板が見えた。マッサージ屋の客寄せ広告に使っているのか。

 それがチェコで初めて見たタイ・マッサージの店だが、散歩をしていたらチェーン店もあれば、単独の店もある。とにかく多い。どこにでもあると言っていいくらいある。おかげで、プラハの古い建物に挟まれた路地で、タイ最高の歌手プムプアンの歌声を聞いた。東北タイの語り物歌謡モーラムも聞いた。客寄せのために、道路に大音響の音楽を排出しているのは、プラハではタイ・マッサージの店だけだ。そこだけがアジアだ。

 店頭の料金表を見てみる。「高い!」というのが第一印象だ。もっとも安いコースで、30分300コルナ以上する。つまり1500円だ。「なあんだ、安いじゃないか」と思うのはカネを持った観光客だ。100コルナで食事ができる国だ。歩道から店内をうかがうと、タイ語が聞こえたので、タイ人女性はいるのだろうが、全員タイ人かどうかわからない。2階や路地裏の店もあり、どの程度のマッサージかまったくわからない。

 あるタイ・マッサージ・チェーン店の前で、車のボンネットに腰を下ろし、大声で電話している男は中国語を話していた。タバコをふかしながらで、ブローカー、あるいはアウトレイジ風の物腰で、店長だろうか。おそらく中国人の経営で、タイ人が協力者として人事関連の業務を担当しているのだろうと想像した。

 前回紹介した『屋根裏プラハ』は2009年から2011年にかけて雑誌に掲載された文章を集めた本だが、そこにはタイ・マッサージ店のことはまったく出てこない。もしかすると、マッサージ店がこんなに出現したのはここ5年ほどのことかもしれない。一応、日本人旅行者のブログなどで確認すると、2005 年など2010年以前の報告もあるが、やはりここ5年くらいの報告が多い。

 以下、プラハのタイマッサージ店の現状を報告する。チェーン店が多いが、路地裏の小さな店もある。どういうものであれ、プラハでは異様な景色で、いずれ問題になるかもしれない。 

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 これもタイマッサージチェーン店。客寄せとはいえ、タイのサムロー東ドイツトラバントが並んでいるのはいかにも現代史的光景である。この女性が身につけているのはタイの腰布ではなく、どこかの布をズボン状にしたものだ。これをもって、「彼女はタイ人ではない」とは断定できない。トラバントに腰かけながら、大声で中国語でしゃべっている男。中国人はなぜか、スマホを空に向けて、スマホ下部のマイクに向かってしゃべるクセがある。画像解読をしていくと、じつに興味深い写真である。