1214話 プラハ 風がハープを奏でるように 第23回

 マルタ・クビショバーとチェコの音楽と政治と その5

 

 2000年に、NHK「世紀を刻んだ歌」(2000)を見ているが、記憶はあまりない。確認したいことがあるので、録画したはずのDVDを家中探したが、見つからない。これまたはっきりした記憶ではないが、今年だったか、再放送したような気がするが、そのときはチェコに行こうとは思っていなかったから、また見る気がしなかった。

 ネット上に動画がないかと探したが、なかなか見つからない。検索語を変えてしばらく探すと、中国語の字幕が付いたものを見つけた。日本語字幕の上に中国語の字幕が付くから、日本語字幕が読めなくなるからじゃまだが、中国人に見せようと中国語字幕を付けた意図はよく分かる。チェコでは、表現の自由が弾圧された歴史は1989年に終わった。中国では以前にも増して厳しくなり、個人崇拝の強要を迫っている。その国の民に、自由を勝ち取ったチョコの姿を見せたいのだろう。

 この点に関して、ちょっと気になることがある。ある日の夜、プラハベトナム料理店で食事をしていると、5人のアジア人が入って来た。話し声で、中国人だとわかった。しばらくして、また5人の客が来た。ジャスチャーで注文している。持ち帰りにするらしい。後から来た5人も中国人で、このグループは店内で合流した。二人が黄色い法被のようなものを着ていて、背中に文字が見えた。

 法輪功。ご存知ない方は以下の情報を。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%BC%AA%E5%8A%9F

 法輪功の反中国運動は、台湾でもバンコクでも見かけた。バンコクでは、王宮前広場で、たったひとりで、反中国のプラカードを掲げている若い女性を見た。法輪功に限らず、言論の自由を求める動きのテキストとして、チェコスロバキアの例が希望なのだろう。

 NHKのこの番組は、日本人の視聴者を意識してへイ・ジュードを中心にしているが、歌と社会運動という点では、「マルタお祈り」の方が重要だろう。マルタ版ヘイ・ジュードは、それがビートルズの歌だとわかった人には反政府的メッセージは効果的で、だから西欧や日本では話題になったのだろうが、チェコスロバキアの全国民の心に訴えるという点では「マルタの祈り」の方が影響力が強かったと思う。しかし、日本人になじみがない歌では、日本のテレビ番組では訴える力が弱いとNHKは考えたのだろう。ビートルズを持ってこないと、日本人はチェコには興味をもたないと考えたのだろう。それは正解だとは思うが、こうして調べていくと、別の面が見えてくるのが興味深い。

 中国語字幕が追加された「世紀を刻んた歌 ヘイ・ジュード」。80分番組なので、時間があるときにどうぞ。画面が小さいので拡大してご覧ください。

https://archive.org/details/hey_jude_Trafalgar